ボクの大好きなソフトクラッカー

コラム:山崎はるか

ざけた題名だ。ひねりも いまいち。
だが山菜書店じゃ、たちまち「ソフトハッカーの恐怖」などと もっとわけのわからない題名に変えられてしまうだろう。

いや そんなこたぁどうでもいいんだ。
文頭には 決まって「謝辞」というのを 入れるのが 私のスジだ。
ここでは「採用してくれた 最愛のvenusさんに捧ぐ、ぶっちゅう」だな。
(もちろん いつも雑誌掲載段階で消されるけどね。)

私は 自分の会社のスタッフ向けサイトにも「クラック講義」を持ち、月1回の割合で授業を行なっているぐらい ソフトクラックが大好きなのだ。その歴史は7年以上におよび、古くは Freia を使ったDiskクラックに起源をもつ。もちろん その講義においてクラックする「教材」は「実際に流通しているソフトウェア・シェアウェア」だ。
あ、レジスト料は払ってるよ。
そのソフトのおかげで、うちの会社のスタッフは「より強力なプロテクト」をかける技術が身につくんだ。
その教材費を支払うのは当然のマナーだな。うん。

【まずは自分から裸になろう】

現在、販売している「DAブラックホール」には4段の。そして「ベルパー」には2段の大きなプロテクトがかかっている。
作者が言うのもなんだが、これらをクラックするのは 比較的かんたんだ。
タイマーを止めていれば 永遠に使うことができる...え?それじゃタイムスタンプやオートループが ガタガタになるって?知ったことか。動けばいいじゃん。
電話回線のレイヤ1や、起動ミリセカンドタイマーからクロックを引っ張ってこないだけでもありがたいと思っていただきたい。なに? データポートやモデムに外から着信すると、RSポートから外に向かって 何か出てるって?
ううむ、するどい。それは ここだけの ひみちゅにしてね。
あん?セットアップした直後のEXEをコンペアすると全部違ったサムになるって?それは 暗黒洞穴・DAブラックホールだけの現象だ。コピーしたヤツの情報がEXE内に組み込まれているだけ。別に動作には関係ないよ。

そう、私が 外向けに開発販売しているソフトは すべて「コピー販売されることを条件にしている」ため 非常に緩くプロテクトをかけてある。通常はプロテクト同士をリンクさせるものだが、私はあえてやっていない。
これは 次の理由によるものだ。
1.ダイアモンドアプリコットの収益の約10%は、プロテクトのリセール収益によるものであること(その実証試験として市販ソフトに組み込むわけだ)
2.ディスクやソフトウェア自体にユーザー情報を組み込んで出荷しているから、コピーユーザーのはしっこを捕まえれば、その持っていたソフトを見るだけで 正規ユーザーまで一直線にイモヅルができること(コピーだから正規販売よりも高速・大量に出回るため、かえって収益...もとい、損害賠償請求が高い)
3.犯人がすぐわかるから、「どうやってクラックしたの?」と直接聞くことができる。その成果はすぐにフィードバックされ 次のプロテクトに活かされる。

現在のところ、プロテクトのリセール先は 大型受注タイプの開発企業だが、いいのを作れば一般ソフトハウス向けにも売れるかもしれない...と もくろんでるんだな。

【実例・個人編】

まずは 直近で昨年11月にとっつかまえた 千葉県の男性(Aくん)を例にとってみよう。Aくんは当時28歳。
彼はニフティサーブのBBS「売ります」で 以下の掲示を行なった。
** 庸子    HQP01*** 97/10/30 19:27
題名:詳細です
御覧頂きありがとうございます。
ソフトの機能は以下のとうりです。
 
l 動作環境
PC-98系日本語MS-DOS(最新版動作OK)
l メディア
3.5インチフロッピー
l 連続リダイアル
指定した電話番号に1-999回まで連続でかけることができます。
オンフックされた時点で即切断ひたすらかけまくります。(話し中でも)かなり高速なので
市販の機械より強力です。当然トーン回線でないと意味がありません。
l モーニングコール(時間指定)
設定した時間に正確にコールします。
l 同報コール
複数の電話番号を設定し同じ音声等を流すことができます。
ポケベル対応
l その他いろいろな設定ができます。
l モデムはATコマンドが使える物なら古い物でもOKです。
 
値段は送料込みで5000円です。限定10本
品物は代金引換郵便にて即日送らせていただきます。
メール受信14時以降の場合は翌日になります。
日中不在の方は局留め希望としてください。
希望の方は住所、郵便番号、電話番号、氏名、を正確に「試験ソフト」としてメール下さい。
お急ぎの方は携帯までどうぞ
連絡番号080-585-****(夜2時頃までOK)
l なおイタ電等に悪用されるかたにはお売りできません。あくまで電話回線の試験用ソフトなので
常識の範囲内で
 

ううむ、こいつぁ どう見ても DA製「ぱるす」のことだ。そこで これをタレこんでくれた人に「お金はこっちで出すから1本買ってくれないか」と頼んだ。
1週間後、私の手元に この製品の現物が送られてきた。
調べてみるとディスクトラックから完全なかたちで「製造シリアル番号・ユーザー名・住所」が抜き出された。また DA自慢の通販システム「とおがらし」にディスクを解析させると、まったくそれに合致する ユーザーが抜き出された。そして それは 宅配便の「送り状」に書かれた送り主の住所に合致する。「完全にクロだ!」限定10本とは 言いながら、注文が来れば 無限に出荷するだろう。こいつは 放っておけん。こいつを被疑者・Aくんと断定して、捜査を開始した。

すぐに Aくんの住民票を取り寄せ、ついで 被疑者の比較的 近くに住んでいる友人に固定資産税評価原簿の閲覧を頼んだ。「なるほど、持ち家かい」
親子でひとつの家に住み、住宅専用造成地の一角に住んでいることが判明した。

これをするのは 損害賠償訴訟あるいは示談に持ち込んで金で解決させるか、とっとと刑事事件にして 牢屋にぶちこんだ上で、一族郎党を破産させて金をもぎ取るか...そのどちらが良いかを判断するためだ。
悪質だからといって、やたらとぶちこむのは能がないことで、金持ちなら じっくりと和解にもちこめば 損害賠償請求に向こうがイロを乗せてくることもある。
逆に「こいつからは とれねぇな」となれば、たとえ どんな微罪であろうとも、とっととぶちこんで 相手の私選弁護士に 親戚一同から集金させることになる。

資本主義のよいところは「企業であれば 正当な金もうけは善である」とするところで、実質的に損害が出ていれば、たとえ人の道に外れていようとも「失った損失を その原因となった当事者から巻き上げるのも善である」ということだ。
カネ、カネと“まことにせちがらいハナシ”だが「金以外で損害賠償を行なうのは不可能」なのが日本の法律だから仕方がない本音からすれば「カネで済む問題じゃねぇ!」「悪いと思うんなら 半年でもいいから、毎週うちに通って便所掃除をしろ」と言いたいところだが、労働基準法とのかねあいもあって、実現できないのが まことに口惜しい。
(※いや以前は やっていた。私の経営するパソコンショップで中学生が万引きをしたのだが、その親が金を持ってきたとき「ばかやろー!1週間・毎朝うちの店の前を親子で掃除しろ!掃除しながら親子でよく話せ!それが本当の反省だろうが!!」って怒鳴ったら、翌日 弁護士を連れてきやがった)
(※最近の親って そんなもんよ)

さて、金を取る算段がついたところで、Aくん本人に勧告だ。
差出人:山崎はるか [haruka@ma.kcom.ne.jp] 97/11/21 (金) 22:56
 
すぐに、販売リストを提出しなさい。(返品の有無に関係なく 全員のぶん)
現時点では てっとりばやく民事で解決を考えてますが、こっちで確認した 購入者が
そのリストに含まれていなければ、遺憾ながら刑事事件に切り替えます。
ウソは 許しません。
また、このメール送信時刻より後に、あなたが 勝手に郵便代引・佐川急便・決済預金口座の各取引書類を隠匿すると
量刑が重くなる場合がありますので警告します。
(始末するのは勝手ですが、各機関の出納窓口に 同じ書類が残存しますからヘタなことはしないように)
すみやかに 販売リストを提出すれば、まだ 民事でカタをつけられます。二度は言いませんよ。
 

見てわかるとおり、私は“おとり”で1本買ってあるから、その顧客が含まれたリスト...となると、Aくんは それが誰か判らないから「全員のリスト」を出すしかない。
もし含まれてなかったら、ブタ箱に直行させられるからだ。賢明な方なら もうおわかりですな。
“おとり”コピーソフトを売った段階で もうAくんに逃げ道は残されていない。

そもそも ソフトクラックだけで、犯罪と考えるのは 私もおかしいと思う。そんな自由まで 警察が取り締まれる社会だとすれば、なんと住みにくい世の中であることか。ある程度の秘密や自由があってこそ すこやかな家庭・健全な社会と言えるだろう。

しかし、そのクラックの「成果」を、企業に対しての「損害」として「ぶつけて」くるなら 話は別だ。クラッカーが 企業に損害を与える権利があるのなら、当然、企業は クラッカーに対して損害を与える権利が生じる。
それが 資本主義の言うところの「法人(格)」なのだ。
他人の人権を尊重しないヤツの人権を、こちらが尊重しなければならない理由はどこにもない。
(※ちなみに パスワードキーやレジストキーの公開は 合法ではないか、という意見がある。まことに一理ある。ならば 私も合法的に「民事訴訟」で5年でも10年でも そいつの仕事中に裁判所に呼び出してやろう。人は公平かつ迅速な裁判を受ける権利があるのだからな。自分の人生をかけて「公平かつ迅速な裁判」を受けてくれたまえ)

では、そんなネチネチしたヤツに とっつかまっちゃった Aくんは どうなったか。
じつは 私にこっぴどく注意されていながら、Aくんの母親が伝票や通帳などの「証拠を燃やしちゃった」そうなのだ。
(言い訳でなしに、マジで。そういう人は 確かに多い)

「てめえ!親子で証拠を隠滅しやがったんかい!」
子を守るためには なんでもするのが親だが、これは、ちと思慮が足りなかったと思う。ということで、親子ともども共犯になってしまったのだ。
(刑法では 親子間の隠匿なら「罪を減免する」とあるが「罪を問わない」とは書かれてない。罪は罪で いったん裁かれちゃうのだ)共犯になったところで、当然、連帯責任。
事実上の連帯保証人となった段階で、Aくん親子に印鑑証明を出させ、公正証書作成委任を承諾させた。これで 裁判抜きに強制執行で 土地・家・財産・家財道具を差し押さえ、バンバン競売にかけ、回収する算段がついた。
(公正証書作成委任を拒否した場合は、当然、刑事・民事双方で訴訟し、がっちり差し押さえるだけのことだが、少々 時間がかかる)

(販売本数12本)×ソフトの売価(¥16,800)×2+慰謝料(10万円)=¥503,200

これが 今回 Aくんが引き起こした著作権法違反の損害賠償算定額の計算書式だ。
ここで「あれ?Aくんは¥5,000で売ってたんだから、定価で請求するのはおかしいんじゃないの?」と気がついた方。ううむ、あなたは弁護士か?いい質問だ。
実は ソフトの損害賠償請求は、そのソフト1本あたりの被害算定を、事実上 好きに決めて良いことになっている。

ちんぷんかんぷん?
つまりこういうことだ。
「本当だったら 販売店に1本××万円でおろすところを、てめえが 勝手に売りさばいたもんだから、そいつらが販売店から買わなかったじゃねぇか。だから 卸価格×本数が うちの実質的損失だよ」という意味なのだ。
そして 著作権法ではこうもある。「同項に規定する金額をこえる損害の賠償の請求を妨げない」つまり なんぼでも「請求」だけは していいんだな。これが。

ダイアモンドアプリコットは 流通を通さない。完全に通販か営業販売かのどちらか。したがって 「売り値」=「卸値」の図式が成立する。ここから 定価×2×売った本数+ここまでの慰謝料を請求しても「きわめて正当な請求」になってしまうのだ。

私は この金額で示談書を書き、Aくん親子に送付。「しっかり 弁護士にも相談しろよ」と追い打ちをかけておいたためか、実際に弁護士に相談したのか わからないが、期限の12月26日に きっちり満額・¥503,200を振り込んできた。

振り込んでこなければ、即刻差し押さえ手続に入るのだが、ちゃんと支払ったなら、これ以上追いつめることもない。この事件の顛末をACCS(社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会)に文書で報告・Aくんがまた同じことをやったら 即座にガサ入れになるようにしておいた。これで すべての処理が終わったのだ。

あいかわらず 後味が悪いが、マイクロソフトやロータスなど 外資系は この比ではない。一昨年、大阪のある企業は 組織内コピーで数億円の損害賠償請求を上記ソフトハウスから仕掛けられ、なんと、その満額で和解・支払った。

「そんなにソフトハウスは恐いのか? そうは見えないけど...」そう 思うのも当然だ。事実、あいかわらず Warezくんや、ピーコくんは後を絶たない。まして「一企業であるメーカーが そんな...」なんて先入観もあるだろう。

だが キッチリ、ソフトハウスは 彼らからモトをとっている。そんな事実が絶対に表面化しない...被疑者が断末魔すらあげることができないほど、ソフトハウスは俊足疾風のごとく彼らを血祭りにしている。これは ハッタリではなく、まったくの事実である。(ダイアモンドアプリコットなど あまあまもいいトコだ)

大手ソフトハウスは...まず プロバイダに対して「販売の事実」を伝え、プロバイダが確認。ソフトハウスと日程を決めてアカウントを停止するところから話ははじまる。被疑者は外部へ連絡不能になったことも知らない当日の早朝、司法警察員あるいは裁判所の執行官が 被疑者宅を訪問し「家宅捜索」あるいは「証拠保全」を行なう。

両方ともやることは同じで、コンピュータや電話機など「著作権法違反」に係った「すべての通信機器」が押収され、完全に音信不通にされる。(だから かならずしもプロバイダの協力は必要としないが...)自分の部屋がからっぽになってゆくところを呆然と見つめながら、警察官が一言「事情を聞きたいので一緒に来てくれるかな」と任意同行を求める。これは 家族がいるときによくある。

そして、パトカー車内・あるいは警察署内で「逮捕状」を広げられ、もう一人の警察官が時刻を確認、被疑者の逮捕が執行されるのだ。罪状が軽ければ その後、釈放されて 検察からの連絡を待つことになるが、拘留期限そこそこに自宅に帰りついても そこに待っているのは、家族の遠い目と裁判所から届いた「ソフトハウスが提起した民事訴訟の訴状」だ。
中身は だいたい 一家が破産するだけの 迫力ある金額が書かれてある。仮差押えが入っている場合もあり、ヘタしたらカードも止まっている。

こんな状況で あらたにプロバイダと契約することはおろか、誰かにこの事実を伝える環境・気力ともにまったく失せている。なにより、この社会と遮断されたかのような「疎外感」が、まともな「思考」すら完全に打ち砕くのだ。これこそ「ソフトハウスの怖さ」が世の中に洩れない 最も大きな理由である。

大型ソフトハウスは 多くの顧問弁護士を「常駐」させる体力がある。
また「法務部」という、法関係を捜査・処理する専門部門も持っている。
証拠が整うまで充分に泳がせ、海外のプロバイダであるなら専任の通訳・現地エージェントを配備する。(むしろ アメリカ合衆国など、著作権に厳しいところでやってくれたほうが好都合だ)

たかだか「言語のカベ」を、あたかも「鉄壁」のように勘違いしているWarezくんは、このことを知らないのかもしれない。また、この「泳がせる期間」を「コピーの黙認だ!」と騒いだ被疑者弁護士もいたが、ことごとく却下された。まあ、「東京速報」など判例や裁判速報に目を通すWarezくんなど ほとんどいないだろうから、この「疾風の血祭り」など 知る由もないだろうが。
(せいぜい マタ聞きした「判例」を振りかざして まことしやかな理屈をコネるのがオチだ。判例というのは「その背景全体」を理解しなきゃ、使い物にならんのに)
(そして 多くのソフトハウスが そんな「知ったかぶり法律家」が多いことを喜んでいる)

ダイアモンドアプリコットですら、非常勤ではあるが 顧問弁護士1名・今年になって専任通訳(英語・米語・独語)を各1名、なんとかそろえた。それだけ費用を投入しても 一家を破産・滅亡させれば そこそこモトはとれるものなのだ。
逆に言えば 滅亡させなければモトがとれない事件が増えてきたように感じる。それだけ大型化してきたのかもしれないが...

ソフトクラックを肯定している人には、この記事は 不快このうえないだろう。(あたしだって やだよ。この記事は ソフトクラッカーにもソフトハウスにとっても嫌な記事なんだもん)

だから このあたりで ほどほどにしておくが、もし もっと事実を知りたければ「UGTOP−山崎はるか、てめえは気にくわねえが 続きだけは読みたいぜ係」まで ご一報いただきたい。
ソフトクラックの摘発に関しては、もっとディープな話がうなるほどある。今回は 直接現場に立ち会ったこと・その一部分を書いたが、他のソフトハウスから伝聞した話などは書いていない。私とvenusさんとのやりとりで、たまに出てくる「換金」という言葉の由来などもそうだ。

私の仲間であり・かつ うちのソフトを「結果として代行販売」してくれるソフトクラッカーは だいちゅきだ。恩人である彼らを 血祭りにあげたエピソードは、雑誌やオモテ舞台にはなかなか書けないのだよ。


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