ボクの大好きなソフトクラッカー2

コラム:山崎はるか

て、これまでは「著作権法」を基盤に述べてきた。法律をタテにベラベラしゃべりまくるようなヤツはきらわれる。
というわけで、ややこしい ハナシばかりでもなんだから ひとつ「聞いた話」を入れよう。
(ほれ そこのあなた。それが読みたかったんだろ?)

ダーティな業界では、ダーティな世界らしく暗黒な手法により、その処分・淘汰が行われる。君子危うきになんとやら。これは 5年前 私のいきつけのスナックのマスター・山本くん(仮名)の話である。

山本は25歳でとにかく働くことがイヤなオトコだった。それでも「金持ちになる夢」だけは しっかり持っていて、生ゴム(きごむ)だの小豆(しょうず)だの「商品先物」に手を出した。労働が嫌いなヤツほど、夢だけは大きい...その法則は どの世界でも同じようで、そういう幻想・幻覚を持つヤツほど だらしない人生を送る。

「金持ち」になるまでの努力を一度も経験したことがないから、「金持ち」になるための苦労を 想像も理解もできんのだろうな。 働くこと以外に、金持ちになる方法はない!

ご他聞に漏れず、山本も 先物で負けまくった結果、「追証」を打ちまくり、街金融や親戚への借金が2ヶ月で1000万円を超えた。無担保融資の場合、年齢×10万円が上限なのだから、彼は とっくに債務超過に陥った。
ま、働くのがイヤなんだから たとえ1万円の借金でも債務超過だけどな。こういうヤツは。毎月の金利だけで30万円になり、とてもじゃないが 小さなスナックを経営する彼に、払えるものではない。

そこで 山本は「アダルトソフトのWarez」を考えた。「ねぇ山崎さん、98のDOSソフトを1枚のCDにまとめられませんか?」謝礼は100万円だと。 バカバカしい。こういうヤツと仕事したのでは、回収はおろか 事件になったときは、まちがいないく 火の粉が噴火する。私は 単に この店のねえちゃんを1ヶ月ごしで口説いていただけだったので、丁重に断った。「いい話なんだけどなぁ」 貧乏人の「いい話」ほど アテにならんものはない。
本当に「いい話」なら 人に言わずに 自分だけでやって、利益を一人占めするべきだ。それこそ 金持ちの王道である。

その後、やっと お目当てのねえちゃんを口説き落とし、投入した酒代の損益計算がイーブンになってリリースした頃、再び、彼女から電話がかかってきた。

  「マスターが蒸発しちゃったの!」

ぎゃはは!ついにとんだか! ま、しょうがないな。たしかに夜逃するしか方法がなかっただろう。
これに懲りて コツコツ生きてくれることを望みたい。真剣に そう思っていた。

 〜Warezで借金を返したオトコ

ところが、それ以降 山本の消息が 本当に途絶えた。
そもそも 蒸発のときから ヘンだった。

山本が蒸発した直後に 店に入って調べたのだが「ピンク電話に硬貨が残っていた」のだ。ざっと 3000円程度だが、金に困っているヤツが そういうのを 取り忘れるだろうか。事実、アメックスやVISAのカード決済ボックスはCATごと持ち去られている。ここでは触れないが、これさえあれば後で「臨時の現金」を作ることができる。

妙に 腑に落ちなかったが、まあ急いで夜逃するんだから 抜けたことをするかもしれないし、深く考えても はじまらん。
その時はそう考えた。

.....ここまでが、私が「その目」で見た 事実である。


ここからは 人から聞いたハナシである。私の知るところ「非常に確度が高い筋」からの伝聞であるから、おそらく事実であろうが、現場にいたわけではないから、一応 線引きしておく。

山本は 暴力団「Y会」のアダルトビデオの販路を使い、大量に「エロ画像」を売りさばこうとした。もともとは 趣味で集めたMAC用の国内CDに輸入裏画像を加えたものだったが、98用のリーダを付け 約3千枚のCDにした。やっとCDマガジンが出始めた頃だから、デュプリも高かっただろう。

その費用は、販路そのものの「Y会」から 借りたらしい。ところが その売上げが 予想以上に好調で隣県まで販路を拡大し、一挙に 数千万円の利益が出たらしい。(山本は その数十%を手にし、友人の借金を一括返済しているのが 残された通帳で確認されている)

それに触発された隣町の暴力団「S会」が、そのCDを「どういうわけか」コピーして 自分の販路でも売りはじめた。非常に近接したエリアに存在する「Y会」と「S会」。当然 怒ったのは「Y会」である。

  『コピーなんてセコイことすんじゃねえよ! うちから買え!』

裏ソフトに著作権もないもんだが(あるんだけどそんなレベルじゃない!)、なににつけても「独占」が大好きなのが ヤクザとマイクロソフトだ。
「Y会」の主張はもっともだが、「S会」も 開き直って

  『うちが 最初に売りはじめたんだ! コピーしたのは おまえらだろう!!』

とやらかした。

非常に低レベルの争いが、山本の知らないところで繰り広げはじめられたころ、山本はこれで やめときゃいいのに、ver2を開発(?)するべく 台湾・香港に2週間の旅行に出た。
同行した恋人によると、相当の「豪遊」だったそうな。ええこっちゃのう。だが 彼が「天国」を楽しんでいる頃、日本では 予想だにしない展開を見せていた。

 〜ヤクザと友達・基礎編

ここで ヤクザについて カンタンにレクチャーしておかねばならない。この話の 後を「正確に」理解するために必要だからだ。閑話休題とでも思ってほしい。

テロ活動も辞さない「総会屋」の存在が 新たに出現しはじめた以上、対抗組織としてヤクザの必要性を陰に漏らす企業は少なくない。ヤクザ・あるいは総会屋のどちらかに金銭を供与することは、商法の特別背任にあたるとされるが、24時間・警察が個人の身柄を守ってくれないのに、企業は丸腰でいろとでもいうのだろうか。
両親や妻子のいる自宅に「現実に」銃弾や火炎瓶が撃ち込まれるまで、警察は動かない。(動いちゃいけない)

法律上・抑止力・防止力に はなはだ疑問が多い「警察」より、違法でも 事前に命をかけて生命を守ってくれるヤクザのほうが頼りになる...そう考えることを誰が責められようか。だが、かならずしも そうだろうか。

ヤクザの集まり・暴力団は ひとつの構成単位でも義理・人情が尊ばれる。それは 今も昔もかわらない。
あなたが どこかの親分のお知り合いになり、旧知となれば、その親分に おめでたいことがあれば「お祝い」をしてあげ、不幸があれば「お悔み」せねばならない。
その際、当然 その気持ちを「金銭」で表明するのが日本のかねてよりの「ならわし」であり、古来からの伝統を尊ぶ「ヤクザ」は これらの行為・風習を「義理」あるいは「義理かけ」と呼ぶ。(最近は つぶしあい状態になっているため「義理」も少なくなったが)ちなみに「義理」において、交わされる 金銭そのものは、ちょっと丁寧に「お義理」と呼ばれる。

この「お義理」がクセモノだ。一般的に 友達への「お祝い」といえば1〜3万円。(親密さにもよりけりだろうが)友達の「香典」では 5千円が、全国的な相場というものだろう。ところが ヤクザに対しての「お祝い」「香典」はケタが2つ上がる。 取引ヤクザの親分が ほぼ同格の親分と「兄弟分の杯」を交わした場合は100万円。同じく その親分が もっと上の大親分と「親子の杯」を交わした場合は200万円。その親分が亡くなった場合も 50〜300万円の「お義理」が必要となる。もちろん その親分の格・規模によりけりだが、つきあうにあたりコストパフォーマンスの見合う(ひらたく言えば役に立つ)ヤクザの場合 この程度は最低でも必要である。本来 これらの「お義理」は 組同士で交わされるべきものだが、実質的に「ヤクザ」を味方につけた企業は「兄弟」として当然のように「お義理」する。

これが「本当」なのだ。

もちろん「そんなカネないよ!」となれば、気持ちでけっこう。お友達と同じように1〜3万円を 出せばよい。ただし あなたに何かあっても、その親分は「友達として」しか あなたを扱わない。「組織」としては 微動だにしないから、その点を 厳重に言っておく。あなたが 友人の結婚披露宴に行ったところで、新郎・新婦の勤める会社が あなたの味方をしないのと同じ理屈だ。
(それなら 遊びに来た兵隊のポケットに そのたびに1万円をねじ込んでやったほうが まだマシというものだ。そいつだけは あなたに対し 恩義を忘れないだろう)

ヤクザに期待するものは 管轄制限のない「組織力」だけである。(武装力をあてにするなら、「火器武装力」において圧倒的に優位を誇る警察をアテにしたほうがずっとよい。)その唯一の利点である「組織力」が動かなきゃ、なんのためのおつきあいなのか 本末転倒もはなはだしい。ヤクザの「組織」を期待するのであれば、利用するあなたも 相手を「組織」と考え、企業舎弟同様、相応の負担をせねばならぬのは 当然のことである。

もちろん あなたが相応の「義理」を果たしているにもかかわらず、もし 相応の「恩」を返さぬヤクザがいれば、とっととヤクザを変えるよう検討し、他の組織のエージェントに接触しろ!その動きを察知した 元のヤクザは、いち早く あなたにワビを入れる。「シノギ」と「メンツ」をダブルで潰されては 元も子もないからだ。

 〜ヤクザと友達・番外編

さて 多くの人が「困ったときに 最悪、カネを出せば助けてくれる」のがヤクザと思っていないだろうか。
まあ、それはウソではない。

まず ヤクザにとって「義理」を「カネ」のやりとりでしか表現できなくなりつつあるのは事実だ。小競り合いがあっても、味方陣営は 兵隊を出さずに「カネ」による「後方支援」を中心とし、まるで国連PKOである。少数精鋭とは言いながら、実際には「利権主義」への変化のなかで武力が必要なくなってきただけだ。カネこそが「兵隊」になっているのが実状である。

一応「武闘派」と言われてる組織でも、平均年齢の上昇は いかんともしがたく、全体の肉体的・物理的体力自体が低下している。したがって 一丁コトあらば 国外の傭兵を使い、自分の配下には ガラス割り(弾丸を撃ちこんで牽制...トンズラする)程度をさせるだけで終始することになる。

こういったことから、モメゴトに対して ヤクザが動くときというのは「よほど」のことだ。
多くの人が、ヤクザに期待する「モメゴト仲裁」とは、つまるところ「脅迫・暴行・傷害」のいずれかを使用する想定だろう。だが いずれも 懲役3〜5年クラスである。たったこれだけでも、組は次の出費を余儀なくされる。

 1.求刑5年を懲役3年にするのに必要な弁護士料¥500万円
 2.3年間の「世の中」休業保障(家族2人)¥1000万円
 3.その他・関係者の調整費用¥400万円

ざっと ¥2000万円近い経費負担を強いられるのだ。

たかだか50万・100万 渡されても、そうカンタンに動けるはずがない。ばかばかしくてやってられないわな。だが、我々に それを肩代わりするだけの金額を「ポン」と出すことができようか。

これも まずムリだな。

いきおい ヤクザは「常日頃から『義理』を欠かさない人」のみを支援することになる。それこそが「本業」だからだ。

たまに 飲みに行った先で、どこぞの組の名前を出す マスターやママがいる。まあ「おしぼり」とったり「盆栽」でも買って でっかい味方をつけた気分になっているのかもしれない。(本当に ヤクザを味方につけている店・直営店は、名前を出す以前に ほっといても素早く兵隊がかけつける)(場合によっては常駐してるし)だが 「おしぼり」も「盆栽」も 「名前出し料」である。それ以上のものはないことを忘れてはいけない。

また たまに「友達にヤクザがいる」などと言うヤツもいる。それは 非常に恥ずかしいことだから ヤメといたほうがいい。実際に その友達は「なんかあったら言えよ!いつでも相談に乗るから」と言っているのかもしれないが、「ほんとに相談だけ」になる可能性が高い。

基本的に ヤクザは「宮仕え社会」であることを忘れてはいけない。ヤクザは組と兄弟のために人生を預けているのであって、プライベートのつきあいとは別の世界なのだ。
単独行動に個人裁量が許されているのは組長・補佐・若頭ぐらいなもので、ヘタなことをすると オヤジやオジキやアニキに 思う存分殴られる。組長ですら 何か「仕事」をするときは 兄弟分や親父に「ひとこと」言ってから行動しなければならない。

それを無視して行動した場合、組から「絶縁」ひどければ「破門」されることがある。(※「絶縁」と「破門」は意味が異なる...が、それは またの機会に)その場合、捕まったときの始末・費用は すべて自分が負担せねばならず刑期も長くなるからたいへんだ。たまに 国選弁護人がついて法廷に立つ人もいるが、あれほどみじめなことはない。
それでも元子分が 必死で保釈金を集めるが、勢い余って子分まで逮捕されることもあり、ドン底 ここに極まれりだ。(破門の場合、資金集めは ほぼ不可能)

そういう道筋がついている以上、その「ヤクザの友達」が どこまで あなたの期待に応えられるか はなはだ疑問である。もちろん「絶縁・破門」を覚悟の上で、あなたに 心底惚れてたら話は別だがね。だが、それならそれで あなたは その「ヤクザの友達」の人生をしょいこむことになる。 その覚悟があれば、頼りなさい。

ヤクザの経済実態に無理解な「暴対法」が成立したのは、ヤクザの実状に無理解な人が多かった証拠だが、自分が責任をしょいこまないから 一方的に「悪」と言えただけのことであり、社会を自分の体の一部として 責任を感じる種類の人は「果たしてそうか」と疑問に思っている。

 〜ソフトで大地に消えたヤツ

さて ここで ハナシを戻そう。「Y会」に コピーCDを販売させ、その利益で借金を返した山本。ところが そのコピーCDの「コピー」を売っておきながら、「コピーしたのはおまえらだ!」と開き直った「S会」

じつは「S会」は、かならずしも開き直っていたわけではないらしい。むしろ「S会」は、本気で Y会に アイディア・CD共にパクられたと思っていたようである。綿密に調査した結果 次の事実が判明している。言葉だけでは ややこしすぎるので 図を見ていただきたい。

山本はCDの生産を ある中堅デュプリケート会社系列の工場に直接依託した。Y会は この工場から納品を受けていた。一方、S会から販売されたCDの供給元を見ると その工場のメインの取引先(実質的に親会社)である「デュプリ本社」からCDの供給を受けているのである。

このデュプリ本社は K組の企業舎弟である。(直営ではないらしいが)CDの販売は K組からの指示だと思われる。

どうして こういうことになったのか。

デュプリ会社が Y会のシノギの片棒を担いでいることを、K組が突っ込んだのか。それとも 子会社経由でK組に情報が流れ、横流しされたのか。いろいろ考えられるが、第三者の私には ハッキリしたことはわからない。唯一、明確なことは「山本は デュプリ屋の素性を調べずに生産を依頼したこと」だ。

帰国して2週間後。山本は営業中の自分の店から拉致される。客の話では、2人の恰幅の良いオトコが 店に入ってきて 山本と二言・三言はなした後、店の女の子に「30分ほど留守番してて」と言い残して オトコ達と共に店を出ていった。


そして山本は、その店に二度と戻らなかった。

その後、2週間ほど 店の女の子達が自主的に 店を開けていたが、客のツケを回収できず、一瞬で行き詰まった。山本の店があったビルのオーナーは、私の親友であり、組関係においては 誰もが一目置くほどの事情通であった。
オーナーによると「山本は 神○山の採石場に連れて行かれた」とのこと。私は 最初、何のことかわからなかったが、現地に行って理由がわかった。「石洗装置」である。

砕石したあとのクズ石は その石灰質・石英質から鋭角に採取される。それらのクズ石は 直系5m・高さ10mの円筒形の回転ローラーで水洗いされ、駐車場や道路の「ジャリ」に加工される。その「石洗装置」に放り込まれると、ガラガラと1時間ほどで 骨も肉もスリ身にされ細胞レベルまで分解される。「細胞」は そのまま泥水と共に流されるため ほとんど(事実上まったく)証拠は残らないかもしれない。私は ゾッとするものがあった。

 〜本当のアングラ

私の調べた限りでは、山本は 消されなければならないほどの落ち度はない。
それに、たかだか市場の競合程度で殺すには組としてもリスクが高すぎる。ひょっとしたら どこかで生きているかもしれない。(が、住民票もそのまま・国保も使わずに数年が経つけど)

ただ、触れてはいけない世界にかかわっている以上、何が起きるかわからない。なんらかの「手打ち」をうまく運ぶよう口を封じられたか… それとも別の問題が起きている最中でタイミングが悪かったのか…

いずれにしても、問題は「山本はコピーソフトを売っていただけ」なのに、世間とおさらばしなければならなかった、という事実である。

アンダーグランドの世界には「アンダーグランドのルール」がある。
山本の「生産工場の素性を調べなかった」というミスは、そのルールを無視する第一歩となっているが、山本は「カタギ」だったのだから、情報不足になるのは当然である。

だが WarezCDの生産などという「ヤバイ仕事」を引き受ける以上は、背景に何かあることを警戒すべきだったろう。
素人が小遣い稼ぎで のこのこ入っていくのは自由だが、地上の世界と異なり、なにもかもが「知らなかったでは済まされない」。

その世界では「法律が違う」のだから、素人が いくら「地上の法律」を訴えたところで、誰も耳を傾けないのだ。山本は コピーソフトを売る前に、この事実を十分覚悟していただろうか。

先月(7月)、私が目をつけていた「大手Warezくん」が 消息を絶った。
例によって 私は他のソフトハウスと連携し、ガッチリ万全の監視体制を築いていたのだが、どういうわけか忽然と姿を消した。

「げ!誰か抜けがけしたのか?」

と、仲間のソフトハウスをあたったり 警察に問い合わせもしてみたが、どこも「え?彼・行方不明なの?」と驚いたような反応だった。ソフトハウスも警察も動いていない...ということは!! 思い当たるふしがある。

彼は 某Q2サイトのMPGもCD-Rに焼いて売っていた。そのQ2サイトのオーナーは、超!有名暴力団の企業舎弟である。

今月(8月)になって 彼のマンションにもう一度行ってみたが、新聞も郵便物も入りっぱなし。
しかし中で合計300W程度の電力が生きていることは、電気メーターの回転からわかっている。おそらく彼のマシンだろう。コンピュータだけが 生きているマンションなのだ。彼が その部屋で、山本の二の舞になっていないことを祈らずにはいられない。

...二の舞いになってたら またコラムするけどな。


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