HOME >> 書籍・人物 >> 山崎はるかのメモ


植物性乳酸菌ラブレの密造(中編)

フェーズ2・純植物原料への挑戦(豆乳によるヨーグルト増殖)

△メモエリアにもどる

このエントリーを含むはてなブックマーク


<< フェーズ1
フェーズ3 >>

前回の課題

前回(フェーズ1)では、湯せんによる 32℃〜45℃の容器内温度分布を利用した発酵により、なんとかpH4.3のヨーグルトに到達することができた。
実験としては、一応の成功といえる。
しかし、これは14時間発酵という、食品衛生上 ほぼ限界に近い環境によるものである。コンタミ(他の菌の混入)の可能性だってある。

一般的な乳性ヨーグルトであれば、製造量の1/10程度の 種菌素材で、40℃+8時間もあれば 充分に酸凝固する。
しかし同じ条件でも、ラブレ菌は、酸生成能が弱く、倍の16時間を要しても まだpH4.3〜4.5をウロウロする程度でしかない。
容器の厳密な滅菌を行ってかからないと、食品としては あぶなっかしい。

-

 それにしても、なぜ こうまで てこずったか。

考えられる原因として、
・発酵温度に問題があるのか?
・ラブレ菌は 乳糖との相性がわるいのか?(果糖などの質的問題?それとも量的問題?)
という2点が浮かんだ。

 前者の「発酵温度」については、思い当たるふしがある。
愛知県産業技術研究所・食品工業技術センターの伊藤雅子氏らから発表された、大豆乳のヨーグルト化に関する研究レポートによ れば、使用したLb乳酸菌の培養に35℃を用いていること。
 また、原典は失念したが、ある研究者の報告では、とあるLactobacillus属の至適培養条件は 35℃≧30℃>25℃ であったという記載を見た ことがある。
それもあり、前回・最初に用いたヨーグルトメーカーは、うちでは 最低温のものを用いたのだが・・・それでも38℃以上というのは高すぎたのかもしれない。

糖の課題はさておき、まず問題の切り分けを兼ねて、「豆乳による 35℃条件化におけるヨーグルト培養」に挑戦する。


密造開始

あらかじめ 言っておくが、ここで作らるものは カゴメ製 「KAGOME 植物性乳酸菌ラブレ」を 原料のひとつに使うが、
・ラブレ菌の一種、Lactobacillus brevis KB290  を用いた発酵豆乳(豆乳ヨーグルト)
を作るわけである。
なにがあったとしても 、「KAGOME 植物性乳酸菌ラブレ」に 責任はない。

 
1.準備

材料 ・設備

種菌 「KAGOME 植物性乳酸菌ラブレ」80ml 計200ml
豆乳 成分無調整豆乳(大豆固形分10%)120ml
装置 ・パイレックス製耐熱容器(湯せん用)
・パイレックス耐熱ビーカー
・シャーレ
・ホットスターラー (回転子は使用せず)
発酵 35℃・12時間


豆乳の pHは 6.8 おどろくほど 中性 なんだね。この豆乳120ml に、ラブレ(pH3.8〜4.0) 80ml を注入した結果、pH5.5 となった。
計200mlとなった混合液を、41℃で 湯せんする。

2.発酵開始


3時間後に 赤外線放射温度計を使って、温度チェック

35.8℃を示したので、若干、温度を下げて 続行させる
12時間後。
発酵終了



よし ! 傾けてもそのまま! スプーンが立つ程度に凝固している。

pH4.8 で、発酵の進行も ひとまず確認。

ヨーグルトになっている! 豆乳ヨーグルトのできあがりだ!

試食

メープルシロップを ぐるっとまわして、ババロア風にしてみた。

食べてみる。

これは・・・あんまり うまくない!!

たしかに 豆乳のエグさは 完全に除去されている。これは すごい特徴だ。
が、例の独特の「香味」が きついクセになっている。

よーく 思い出すと・・・そうだよ、ラブレに 薄くのってる あの香味を 数百倍増幅したあの香りだ。

そうか ラブレ菌の出す成分ってこれかも。
京都の伝統食品“すぐき漬”も 「香り付けに」とかゆってるしなー
すぐき漬を食べたことないから因果関係を確認できん。

今度、京都でたしかめることにする


が、いずれにせよ、今回の結果は pH4.8であり、保存食ヨーグルト とはいえない。
実験としては成功でも、食品としては失敗である。
 

んー

一応、35℃の条件下で豆乳ヨーグルトが生成できることは 判明した。

じゃあ、35℃近辺のベストセッティング、すなわち 「最適な発酵条件」と、その際の「酸生成能」はどこにあるのか・・・ということになる。

・・・困った。
うちにある 理化学機器は、ほとんどが「化学・理工学」用なので、基本的に常温以上を作り出す装置ばかり。
常温以下の 40℃未満の微妙な温度管理を行う装置はない。

ここから先は、バイオなんだよね、バイオ!


しょうがない、あのお方 に ご登場願うしかない。

 

ヨーグルティア YM-1200-ST

ヨーゲルトメーカー最強ブランド・ タニカ ヨーグルティア

植物性乳酸菌ラブレを使って、純植物性原料をベースに 各種ヨーグルトを安定的に作るには、これを用いるしかない。

40℃発酵の一般ヨーグルトはもちろん、25℃のケフィア、27℃のカスピ海ヨーグルト、果ては45℃発酵の「納豆」まで、これ1台。すべてのシーズンにおいて 安定的に かもしまくってくれる、最強の装置である。(2007年12月現在)

 発酵タンク容量も 1,100ml という、マニアな細かさ。他のヨーグルトメーカーを使った方ならわかると思うが、「種を入れる量だけ ちょっと牛乳を飲んどく」という作業はこの機種には必要ない。 そのあたりを、わかりまくってる。
種菌も牛乳も、すべて どばどば と入れて、温度とタイマーをセットすれば、自動的に出来上がってしまう。
 乳酸発酵どころか、イースト菌(ドライ)の展開まで行え、さらに大学の生物学研究室でも かなり重宝されているという素晴らしい傑作である。
これを作った タニカさんには、ヘタなモデルチェンジをしてもらいたくないね。傑作なんだから、そっとしといてほしい。
(東芝さんから OEM が出ているぐらいだが、せいぜい この程度にしといてほしいw)


至適培養環境 調査試験

1.標準値
まず、酸化力の標準値をとる。
ここでの標準値とは、「ラブレ菌を入れない状態」で、豆乳を 35℃・12時間 加熱して、pHに変化がないかを調べることである。

 本来の至適培養環境試験なら、実験後の試料(豆乳)を、新たな培地に添付し、さらに培養のうえコロニーを数える・・・といった作業になろう。
・・・が! たかだか 自分で食うヨーグルトのために、そこまで するかっ!
したがって、今回は pH・すなわち「酸生成能」によってのみ、培養状態を推定することにしたわけだが。
pH 一点調査に依存するわけなので、その基本値についてだけは しっかり とっておくことにする。

まず 酢酸を蒸留水で希釈して、「KAGOME 植物性乳酸菌ラブレ」とほぼ同じ、pH3.8 の溶液 80ml を作る。
これを 320mlの無調整豆乳と混合し、スターラー(攪拌装置)で30分攪拌した。
その結果、pH6.0 の豆乳混合溶液 ができた。

これを、ヨーグルティアで 35℃・12時間加熱したあと、30℃まで冷まし、pHを測定したところ pH5.8であった
pHの変化率は 0.2低下±0.1であり、ほとんど 誤差の範囲内の低下であった。
すなわち、この試験下において、酸化率の標準値は pH0.1〜0.2 下げる程度のものと考えられる。


ラブレ代用液の作成 →

代用液と豆乳の攪拌後

35℃・12時間加熱後

12時間加熱後の pH
40℃試験


無調整豆乳320ml+KAGOME植物性乳酸菌ラブレ80ml

40℃・12時間 → pH5.5

一応固まってはいて、局所的にはpH4.5のところもあるが、かきまぜた結果は pH 5.5であった。

全体が固まるというより、コロイド状にダマっぽく固まるという印象。

35℃試験

無調整豆乳320ml+KAGOME植物性乳酸菌ラブレ80ml

35℃・12時間 → pH5.1

がっちり固まっており、スプーンが立つ

 


30℃試験

無調整豆乳320ml+KAGOME植物性乳酸菌ラブレ80ml

30℃・12時間 → pH5.2

35℃より 若干 固まりが弱い印象はあるが、均一に硬化している

 



 以上の結果から、

豆乳+ラブレの 至適培養温度は、30℃〜35℃ であり、酸化力は pH0.9±0.1 (素材3:1種菌時)と推定された。

どこかで読んだ Lactobacillus属の至適培養条件 35℃≧30℃>(25℃) というのは、おそらく 本当のような気がする。
あの論文、どこで見たんだっけかなぁ・・・ 忘れちまったのが悔やまれる、というか、その研究者さんに申し訳ない。

結果として、追認するカタチになった。
発見次第、論文名と発表者名を掲載することにする。

→ ※判明・大日本インキ化学工業株式会社『スピルリナの乳酸発酵によるγ-アミノ酪酸(GABA)の高含有化及び血圧降下作用』(榊原正樹氏ら)の論文内 「3.3 Lactobacillus brevis NBRC12520の増殖に及ぼすpH,温度の影響」
(これによると、正しくは 温度37℃≧30℃>25℃ であった。)

 

いよいよ次が見えてきた

純粋に豆乳を用いただけでの植物性乳酸菌ラブレの増殖は、生化学的には可能である。

しかし、そのままでは 食品に適さない。
理由は、

・第一に 「味がまずい!」 マズすぎる。
・第二に、ヨーグルトというには 酸度が低すぎる(他の菌を撃退できる酸度になっていない)→食品衛生上 問題がある

フェーズ3では、これらを 一挙に解決し、いよいよ、植物性乳酸菌ラブレを 思う存分、ガブ飲みすることを目指す!

-

追記 本実験企画が始まってから 自家製ラブレ菌飲料を飲みまくるハメになってるんだが。 (このメモに書いてあるのは 結果だけであって、そこまでの試行錯誤の産物も大量にあるわけよ)
 で、それは なるべく「食して」処分してるんだが、そのせいか、この 2週間で体重が2kg落ちた。すとーんと。
「○○を食べるダイエット」みたいなのは信じてなかったんだが、一応 なんらかの根拠はあるかもしれんね。
どんなことも、あたまごなしに 否定はできないと思ったわ。

(2007/12/1・山崎はるか)

<< フェーズ1
フェーズ3 >>

■ メモエリアにもどる