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旧・山崎はるかの「ひみちゅ」(6)

ピーコの追い込み

ソフト著作権法違反の対策方針

※このコンテンツは「山崎はるかの ひみちゅ No.6」から移転したものです

このエピソードは 三才ブックス・ゲームラボ にてマンガ化されました

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2001/01/17 執筆


題名で誤解をうけるといかんから

 べつに ファッション評論家をストーキングするわけじゃないからな。
わかってると思うけど、念のため。

 

なぜ著作権を死守するか

ソフトウェアの著作権に対し、プログラマや経営者の価値観はさまざまである。
したがって、それぞれのプログラマや経営者が 著作権に対し、独自の解釈を行い・独自の許諾範囲を設定する。
著作権法はそれが許された法律であり、著作権者が かなり自由に独自の解釈を行ってよい。
それがあまりに非常識だと、裁判で争われることになるが、おおむね著作権者が強い。
(たとえば ○に耳をふたつ書けば、それだけでミッキーマ○スと解釈する人もいる)
(まあ これは意匠権も含まれるが。)

これが著作権法の特殊性である。
著作権法には、事実上 判例も法論も あまり通用しない。

私も独自の解釈を持っている。
私は「著作権」は死守するけども、「著作権法」を 過大に評価するわけではない。
著作権を大切に思うことと、法律を大切にするかは 別問題である。


私は次のように考えている。

あたりまえのことだが、ソフト開発には 人件費と設備投資が不可欠である。
したがって、ソフトウェアの代金を回収することによって、その費用を補填する。
これがソフトメーカーが生きる上での 大原則である。

しかし、それは開発者側だけのいいぶんである。
私は 少し 角度が異なる。

もし、自社以外で、自社のコピーソフトが勝手に流通すれば、カネ出して買った人がバカをみる。
つまり、カネを出して得た「ユーザーの権益」を、メーカー側が 守ってあげることが、メーカーのユーザーに対する責任である
この責任をメーカーが放棄したとすれば、ユーザーが高いカネを出して買ったソフトウェアは、ただのCDやFDとなってしまう。
もしこれがソフトウェアでなく、株価・有価証券だったとすれば、あきらかに経営陣はユーザー(所有者)から訴訟されるだろう。
(いや 近い将来、ソフトウェアであっても そうなると思われる)


自社のソフトウェアを使用するユーザーに対して、その権益を保証すること。
これが私の考える、「著作権法」である。

著作権法は 著作者よりも、むしろその作品によって利益を受ける「購入者・投資人」を守る法律である。
著作権による自社の利益は、その次に来るものであって、けっして第一義ではない。
著作権者は その意義に沿って著作権法を運用せねばならん。

自社の利益を行使したければ、著作権法ではなく「著作権」を主張するべきである。
この微妙な差がわからなければ、読み飛ばしてくれ。


フリーウェア(DAではプロキシランチャーやオルゴトロンなど)は、自分自身が・自分自身のために、「ほしかったソフト」「つくりたかったソフト」である。
つまり、できあがって自分が使った段階で モトはとれている

すでに モトがとれているのなら、他人にタダで配ってもいい、という考え方である。
自分で使っても モトがとれないのなら、それはシェアウェアにする。

ただし、フリーウェアであっても、「転載不可」などの「著作権法上の権利行使」をしておかないと、たとえばウイルス入りの自社ソフトをバラまかれたりなど、ユーザーを危険な状態に陥れる。
フリーウェアであっても、ユーザーの権益を守る 一定の義務がメーカーにはあり、ユーザーの権益を守るための方法のひとつとして、著作権法の行使が必要である。

これが 私の著作権法に対する解釈である。


ほとんどがチクリで捕まる

どうも UGTOP のコラムを書いてから、「山崎はるかはピーコ犯を強烈に追い込むヤツ」というイメージである。
UGTOPコラムが終了になって以降、そのうわさだけがが 一人歩きしているようで、最近は かなり偶像化しているみたいだ。
一応、言っておくけどさ。
そんな、毎回、Warezにブチ切れてたら、早死にするって。
(そもそも、あのコラムでは「他はこうやってる」という話題が中心だったが、それも含めて 私がやってるという評価らしい。ま、いいけどね。)

コラムを書いてから、3年が経過したから、ここらで いまのところ業界はどうなってるか、報告しておこう。

まず、私自身であるが、最近は追い込みをやっていない。
ストーカーの追い込みで忙しく、それどころじゃないからだ。
また、他のソフトハウスから「うちの発見したらおしえてください」というのが連発して、「おいおい」ということになってきた。
(複数の団体から「追い込みのセミナー開きませんか」とお誘いがあったのはぶったまげた。もちろん丁重に辞退させていただいた)

あたしゃ、自分のソフトがピーコで売られたら(配られたら)アタマにくるだけであって、他のソフトハウスまで面倒みきれん。
そのかわり、プロテクト技術の供与ということで、ごかんべん願っている。


 そもそも、Warezに対して、社会基盤(つまり警察の捜査手順)が整ってきており、いちいち出向くまでもなくなってきた...というのが、本当のところだ。
そして、それは他のソフトハウスも右へならえのようで、自ら個別の著作権法違反について 追い込みをかけるところは少なくなってきている。
※少なくなってきただけで、まったくないわけではないから、誤解なきよう

それはなぜか。
ちょっと、ここで数字をあげてみよう。

幸いなことに(?)、DA電研では、昨年から今年にかけて、著作権法違反の報告については0件である。
まあ、実際には まったくないわけではなかろーが、視界に入るほど大規模にならないのは、イメージのたまものかもしれん。
しかしDAグループ全体では、OEM提供のアプリケーションを含めると、昨年・一昨年(1999〜2000年)は9件の違反報告があった。
それが、どのように発覚したかは、以下のグラフのとおり。


「警察から連絡」というのは、警察が独自捜査で発見したピーコ犯の自供・あるいはガサ入れの結果、DA製のソフトウェアが発見され、確認(調書作成のための出頭要請)があった事例だ。

「他のソフトハウスからの連絡」というのは、そのソフトハウスの自社調査・あるいは告訴などにより、被疑者がとっつかまるなどした際、その被害ソフトウェアの中にDA製のソフトが混ざっていた...という状況。
「DAだから仲間になってくれるだろう」(実際そのとおりなのだが)というわけで、連絡があった事例。

 なお上記 2分類は、最終的に双方が混合している。
連絡について警察からが先か・ソフトハウスが先だったかの差で分けているだけ。
どっちにしろ犯人は、警察の刑事事件化・ソフトハウスの民事事件化の双方にさらされている。

「チクリ・内部告発」は、DAあるいはOEM先に「うちの上司がピーコしてます」とか「CD-Rが配られてます」など、司法機関を通さずに直接・報告があった事例。
これは 双方とも、OEM先の法務部門が処理した。当然、2件とも とっつかまった。

「自社調査」というのは、これは特異的な例であったが、OEM供給先との打ち合わせで ネームバリューを検索サイトで調べていたら、偶然 ひっかかったヤツだ。
原則として、DAでは遊撃的な調査は行わない。
黙っていても、どこかの時点で、誰かがチクリを入れて表面化するからだ。動くのは その後だ。

いずれにしても、Warezのほとんどは、誰かが告発することによって表面化する。
まさに、人のクチに戸をたてることはできないのである。

 

業界では かなり「マニュアル化」されている

これは、私に「見える範囲」での傾向であるが...
企業・ならびに警察の、ピーコ犯(ワレザー)に対する奇襲成功率は、以前よりも高くなっているような気がする。

奇襲というのは、ピーコ犯に対する ガサ入れ・任意同行・署内逮捕が 数時間で行われ、一瞬で 決着がついてしまう、電撃的な検挙実態のことである。※奇襲じゃない検挙も著作権法違反には多い
奇襲検挙の場合、保釈が なかなか効かないことが多く、自宅に帰れるのは結審後。
家に帰っても、パソコンもモデムも携帯電話も押収されており、外部への連絡手段が絶たれている。
(ほとんどの場合、クレジットカードも事故停止扱いになっている)
すなわち、ネットへの復帰に最低でも1年以上かかり、自分が捕まったことを人に言えない。

このことから、ネット上の周囲の人は「最近こないねぇ」「プロバイダにアカウントつぶされちゃったみたいだよ」と、えらいノンキなことを言っているが、じつは そんな会話をしている同じ時間に、そいつは鉄格子の中である。


よく新聞で「違法コピーで逮捕」と掲載され、実名も公表されている。
が、多くの場合 ピーコ犯は「ハンドルネーム」で取引しているため、公表された実名が その人だと気づくのはわずかである。

笑えることに、これは 別の「いもづる」も 引き出すことになる。
捕まったのに、そうとわからず「注文」してくる人達がいるからだ。
しかも「メール」という、なかなかに文書的な手法で注文してくるわけであり、ついでに そこには注文した人の 正確な住所・電話番号まで書かれてあるから、捜査側にとっては おいしい。
それを どういう名義で押収しているのか知らないが、これも押収。
ピーコ犯の 自供の裏が 完全に取れるまで、黙って積み重なるのを待っている。
こうなると、ピーコ犯は 観念するしかない。
観念しなくても、注文した人を ひとり ひっぱってくりゃ、ベラベラ しゃべる。
(注文した人も 著作権法違反に問えることが多いからだ)

ピーコ犯が 少しでも自分に不利な自供をしてしまったのなら、もう罪状認否で認めるしかない。そうして改悛の情をアピールするしかない。
動かぬ証拠がありながら、しらをきる(全面否認する)のは、起訴された後の場合、自分の一生を賭けた戦いになることを覚悟せねばなるまい。
(どうしても刑務所がイヤで、拘置所ですごしたい・拘置期間の算入だけで100%クリアしたい場合は別だけどな)
ただ初犯の場合、ほとんどが執行猶予になるのだから、ヘタな小細工はしないほうがいいだろう。


じつは、この奇襲検挙の数もそうなのだが、ワレザーサイト立ち上げから消滅までの期間が かなり短縮されているのだ。

昨年、DAの社長室調査部と顧客情報監察室が合同で、ワレザーサイトの生死確認の統計をとった。
実際に購入したり、問い合わせするなどして、見つけた違法販売者の氏名と住所の40%を確保している。
(これはコントロールドデリバリーの範囲を逸脱しており、まして薬物でもない。完全な おとり捜査である。民間企業だからできる大技といえよう)
(司法機関がやったら違法で、民間企業なら合法というのは 不思議だ)

もちろん、これはDAの遊撃的調査ではなく、単純に統計をとることが目的である。(実際、DA製ソフトは販売されてなかったし)

残りの60%の主催者や管理者の氏名・住所はつかめていない。が、プライマリメールアドレスは掴んでおり、なかなかしっぽを出さない場合は、わざとトラブルを演出して 吐き出させた。
(違法販売をしている人はタレコミを恐れるがばかりに、トラブルに対しては カタギの企業よりも誠実に対応する)

それらの統計をとることで、報道されたピーコ犯の検挙日時と ワレザーサイトの生死確認を比較することが可能になった。

それを並べると、まずワレザーサイト掲載後 だいたい4ヶ月以内に 捜査機関に目をつけられる。
ガサ入れは、それから2週間〜半年程度。
ただ、サイト自体は 犯人検挙後1ヶ月も放置された例がある。

また、特定のソフトウェアを そのサイトで取り扱うか・否かで、ガサ入れまでの期間に大きな差があることもわかった。
つまり、いくつかのソフトハウスは、ネット上のワレザーに対し、独自の監視を行っていることが判明したのである。
(これまでは、タレコミを端緒とする「独自の追い込み」をやっているソフトハウスは あったが、「独自の監視」まで行っているソフトハウスがあるか どうかは 判然としなかった)

紳士協定上、そのソフトウェアの名称を言うことはできないが...
まず CAD系のソフトハウスは、すこぶる用心するべきだろう。考えてみれば なるほど、CAD系ソフトハウスはソフトの単価が高く、目を光らせる理由もある。また それだけの監視コストを投入しても、ワリにあう収入が期待できるのだろう。

また、音楽系ソフトメーカーや その下請け・外注ソフトハウスも 同等に警戒するべきである。
彼らが最初、どういう理屈でコピー販売を発見できているか わからなかったが、そのソフトを買って判明。
そのソフトの一部機能を使うと、市販メーラーのレジストリに「0x20」に続く ソフトのバージョンの末尾1桁を書き足していた。
バイナリ展開しても、そのレジストリキーは隠されているが、クロスアセンブラ・デバッガで動かしてみると、みるみる展開。
聞いたことのないような、マイナーなメーラーにまで対応していた。
ちなみに文字列が追加されるのは、各メーラーのマイナーリビジョンの末尾であり、メーラーの利用においては、なんら障害はない。
(ちなみに ソフトウェア利用承諾書を読むと「OSならびに使用ソフトウェアの通信機能の一部をソフトウェアが書き換えることがある」と書かれてあった)

ここまでやるなら、IEやネスケのバージョンを変えたほうが、Webサーバのログで すぐに取れると思うのだが、開発者も さすがに気がとがめたのだろう。

なお外資系ソフトメーカーは、現時点で、概して独自監視はほとんど行っていない。
ただ、一度 表面化すると、とんでもねー金額をふっかけてくるのは、昔とかわらず、むしろ 今のほうがひどい。
私でも破産は免れまい。くわばら、くわばら。


しかし、なんだかんだいって、各ソフトメーカーも こそこそと、やるこたぁ やっていることがわかった。

先日、ソフトウェア著作権団体の ある人を通じて、「違法コピー対策マニュアル」の監修を 大手ソフトハウスから依頼された。
おもしろそうだったので、できてる分だけ 読ませてもらったら...
私など 口出しできる余地がないほど、「完璧・ハイスピード」の対応マニュアルが出来上がっていたのである。
(ほとんど完成していた。監修者に 私の名前がほしかっただけだろう)

内容的には、かつてUGTOPに掲載していたコラムとほぼ同じだが、捜査機関とのリンクがより明確で、最短3日で告訴状を提出・早ければ約1週間で検挙されるものとなっていた。
3年前は最低1ヶ月はかかっていたものである。

すごいのが、「被疑者の家族に対するケア」も含まれていることで、とにかく紳士的に接し、仏の顔を見せることが徹底されていた。
これは、後に 家族から賠償金をふんだくるための伏線であり、同じことを「借金取り」もやっている。
書いたのは有名な弁護士らしいが、たのむから ゴロツキみたいなことを 現場にさせないでくれ。

原則としてバレてたら捕まる

一方、少しも マニュアル化されていないのが、被疑者(ピーコ犯)である。
あたりまえか。

ここで ひとつ、おさらいしておこうではないか。


一度、捜査機関に目をつけられた後では、その時点でサイトを閉じても もう遅い。
むしろ閉じる操作や手続きで 足がつくのが早くなるだけだ。

さらに代金の収受があった時点で、もう逃げられん。
警察は プロバイダとの間では 未だギクシャクしているが、銀行など金融機関との間には 連携と信頼関係がすっかり できあがっているのである。
架空口座であっても、ATMを監視されたら、どうしようもない。
往々にしてピーコ犯は「貧乏」であり、現金引出も細かく回数が多い。
そのリストを出されたら、どこに住んでいるかぐらいは目星がつく。

これにアクセスポイントのログが加わると、あとは地元のNTTに照会するだけだ。
ここまで 1〜3日。

ただ、NTTなどの通信記録は 補強証拠と考えている捜査員も多く、しかもカンタンにとれるので、後回しになることも多い。

これに並行して、初日から犯歴と、犯罪手口票のデータベース検索がはじまっている。
おもしろいのは「こいつは 過去に何かやったか」ではなく、「こんなことをやりそうなヤツは誰だ」というスタンスで 犯人を挙げる作業も行われることである。
つまり 被疑者の名前が わからなくてもよい。
かつて、偶然 逃げおおせた(証拠不十分)ヤツも ここで発覚する。

2年以上やってて 捕まってないヤツは、ここで筆頭に登場することになる。
架空口座であることが判明した場合は、それが誰が誰に売ったものか、調書・資料から引っ張り出される。
(最近では この架空口座が データベース化されているとのウワサもある)
著作権法違反の場合、この作業に3日程度。もっと早い場合もあるらしい。

-

当然、被疑者は 目をつけられていることに気付かない。
なぜなら、ここまでの作業で、捜査員は 一度も 署内を出ないからだ。

著作権法違反で、尾行・自宅監視は 外国人犯罪が絡んでいない限り、あまりやらない。※規模が大きかったり、住所が判然としない場合は別だ

というか、ネタがあがってたら、捜査してるのが 本人にバレててもいいぐらいだ。
貧乏なら、逃げても すぐに自宅に もどらにゃならんしな。
それに取り逃がしても、警察自体に さほど損害はない。
「犯人は逃走しましたが、全力で追っています」
と、被害者に言うだけですむ。
被害者も そんなに怒らない種類の犯罪である。
だから むしろ、その余裕が、犯人に気付かれるリスクを縮小し、確実に犯人を挙げてしまうのである。

-

着手より おおむね 二週間。
ガサ入れに先行して、任意同行が行われる場合がある。
いわゆる「おはようございます」だ。
ピーコの販売という、かなりワリにあわない犯罪を選択する以上、その知能程度から、犯人は いくつも 偽装ミスを犯していることが多く、その結果、捜査員が署内から一歩も出ないうちに、絞り込まれちゃっていることがあるからだ。
(最近は こっちのほうが多いんじゃなかろうか)

この場合、玄関先に2名(ヒマ人がいる場合はウラにも2名)、捜査員が 早朝 訪れることになる。
「おはようございます。××さん いるかなー?○○署ですけどー。」
と、なかなかにフレンドリーな場合が多い。
「はなしを聞かせてほしいんだけど」
とニコニコ笑っている。
ただ、パトカーの中に入ったあと
「じつはねー。キミに逮捕状がでてるんだぁ。」

家族同居の場合、その家族は 「刑事が来たときには、もう うちの子(うちの人)は パトカーに乗っていた」と証言する場合が多い。
それほど 瞬時に連れて行かれる。
これは、犯人と その家族に 必要以上の不名誉な状況に陥らせないようにするための、半ば親切心が捜査員にはたらいているからである。
(もう半分は、後に自供を拒否したら、せっかくバレないようにしてあげたのに、これじゃぁ、名前も住所も番地まで新聞に載っちゃうねー、と追い込むための伏線である)

すなわち、逮捕状が出ているときの 任意同行を拒否すると えらいことになる。
任意同行を拒否したり、暴れたりすると、家族の目の前で逮捕が執行される。
しかも、ただでさえ「堂々と違法駐車しているパトカーや覆面」を 不審に思ったご近所の人が、トイレや風呂場のマドから こっちを伺っているのに、その視線の中を 手錠をかけられた あなた(犯人)が 引き回されることになる。
お母さんは、ぶったおれること うけあいである。

被疑者に対して 捜査員が笑顔で接している場合は、証拠は完全にそろっているということだ。
ガミガミ言うときは、自供が どうしても必要なときであり、それなら まだチャンスはあるかもしれないが、著作権法違反に関して その可能性は低い。

なお、任意同行を求められた現場において 逮捕状が出ている・出ていないの 外見からの判別は難しい。
「任意同行は あくまで任意」とほざくヤツが アタマのいい人にいないのは、これが理由である。

警察署内までいって、逮捕状が発行されていないことを確認してから 帰ってくるほうが まだ戦略的に得策なのだ。
(ただ、任意同行でも、家に帰るのは難しいがな。)
(たとえば「帰られちゃうと 明日 職場で話を聞かなきゃね。こっちも忙しいんだよ」とか「お友達に 話を聞かなくちゃいけないねー」とか しれーっ と言ってくる。)
(そして 本当にやる。私は この友人作戦に 一度 耐えたが、二度目で 懲りて、警察の任意同行に応じたことがある。しかも その友人に対しても、同様の おどしをかける。自分が関係者というだけで、自分自身は無実の場合、迷惑このうえない)

-

任意同行のうえ、罪を認めると、数時間後に 自宅にガサ入れ(家宅捜索・差押)部隊が到着する。
もちろん 最初の「おはようございます」で、同時にガサ入れが行われる場合もある。
このタイミングは、犯罪の重さ・形態・立会人(家族)の有無などによって左右されるが、これらの順序は捜査員が勝手に決めてよい。
もとより、捜索令状は裁判所の発行する「許可状」であって、命令 ではない。
実際、家宅捜索令状があっても ガサ入れせずに帰る場合もある。

また、刑事事件の場合 被疑者(犯人)もその弁護人も、捜索に立ち会う権利がない。
したがって、「弁護士を呼ぶまで内部に立ち入るな!」と叫んでも意味がない。
(民事は別だ。弁護士が立ち会える)

よって、あなたが警察署内で取調べを受けている間に、留守をガサ入れをされても文句がいえない。
もし一人暮らしとかで ガサ入れに 立ち合わせてもらえるなら、ラッキーとばかりに参加するべきである。
そして せめて、重要な証拠が隠されている場所があるなら、その反対方向を向いて座れ。
捜査員は あなたが「向いている方向」を重点的に調べるからである。
(というか 権利もないのに 立ち会わせるってのは、それが狙いだ。)
すでに証拠は あらかた そろっているのだから、この程度の抵抗をしてもよかろう。

なお、あなたが集合住宅(マンションやアパート)に住んでいるのなら、重要証拠を廊下や屋上など 共有部分に置いておくと、これの押収は 手続きが煩雑になるため、見逃されやすい。
ただ、普通に「無くなってしまった」ときに むしろパニックに陥るがな。

著作権法違反の場合、身体に対する捜索はされないことが大半だ。
(許可されている場合は、令状にその旨が書かれている)
ただ、ちょっと例外がある。

最近は、キーロック型のPCが増えている。
これのカギを 犯人が隠し持っている可能性がある。
これは 微妙だ。
犯人が そのカギを 手に握り締めている場合は、捜査員は 指をこじあけ・ねじ開かせ、取り上げることができる。(普通はしないが)
しかし、犯人のポケットに入っている場合は別だ。ポケットは着衣の一部であり、この中までは 身体に対する捜索が許されていない限り やっちゃいけない。
ただ、最初に 外から触られて「これは なんだ?」と やられちゃうこともあるけどね。

他にも「メールをプリンタに打ち出す・打ち出さない」の問題もあるが、こんなところで抵抗しても、PCまるごともっていかれたら終わりだから、ヘンなことは しないほうがよかろう。

-

ま、ここまでは、悪い夢でも見ているような気持ちで、なんとか耐えられる。
だが警察署内で 一番最初に行うであろう「ある書面手続き」で、まともな人なら、心身ともに 打ちのめされる。

それが「押収品目録交付書」である。
カーボン式になっているんだが、これのレイアウトが かなり精神的にくる

「本職は、次の被疑事件につき平成×年×月×日 東京都新宿区○町○番地において、下記目録の物を押収したので、この目録を交付する」
「被疑者:(あなたの名前)」←すでに書かれている
「罪 名:著作権法違反」

普通、他人に書かれた「自分の名前」というのは テストで何番だったとか、合格通知とか、商品の当選など、縁起のよいものに記載されることが多い。
ところが、押収品目録交付書では 自分の名前の左に「被疑者」、その下に「罪名」と書かれている。
他人に書かれた 自分の名前としては、最悪のものだろう。
交通違反の反則切符に 自分の名前が書かれるだけでドキドキする人なら、これは気絶もんである。

この段階で、「自分は重罪人になってしまった」というのを とてつもなく実感する。
(あらかじめわかっていても、かなりくる)
逮捕状や家宅捜索令状は「一瞬」しか見ないから これを意識しないが、押収品目録交付書は 正面の取調官との話し合いのもとで書かれるため、2時間ぐらい この文書を見つめさせられる。
書き終わったときには、すっかり「もう家には帰れない」という気分になる。

その後に、本式の取調べが 数日間にわたって続き、数十枚にわたって拇印をおしてゆく。
死にたくなるのも当然だ。
取り調べの最終日には、「自分の生い立ち」や「趣味」について調書がとられ、最後に各捜査員が入れ替わり立ち代り入ってきて「眼通し」が行われる。
(捜査員全員が 犯人の目を見ておくことで、次に別の犯罪でみかけたとき、すぐにピンとくるようにする作業。「目あたり」の予備作業みたいなもん。)

このときは できるだけ、目をつむっているか、ヘンな目をしておくことをお勧めする。
ただ、この頃には「ストックホルム症候群(人質が敵に親近感を持つ)」や「リマ症候群(人質が敵の文化や行動を受け入れる)」が発症しており、往々にして
「いやー、最後のほうになると 刑事さんと友達みたいになっちゃったよー!」
などと のたまう状態になる人も多いから、そんな気分は 吹っ飛んでるかもしれんけどな。

だから、観念したときのために、あらかじめ「着替えと洗面具持っていくか?」と逮捕時に言われたら、それに加えて「ハンコも持って行きます」と言っといたほうがいい。いろんな意味で。
せめてハンコのほうが 調書に拇印を押すより、精神的に かなりラクだしな。(本当だ。だまされたと思って持っていけ)

逮捕され、取調べを受けるときは、一流企業の社長並に「はんこマシーン」にさせられてしまうのだ。

残された家族は

昨年、著作権法違反で逮捕・懲役2年執行猶予3年を 打たれた人の家族と話をした。
これから話すことは 一部 内容をぼかしていたり、実際の動きを端折ったりしているが、悪意があるわけじゃないから、許してくれ。

その人は、かつてDAのOEMソフトウェアをコピー販売したことがあり、その時は 同居していた両親共々、警告(説教モード)で済ませてあげた。
だが、それで懲りてりゃいいのに、その後「DA以外だったらいいや」ってんで、ウラビデオと共に他のソフトメーカーのソフトをコピー販売しまくり、ついに先の「音楽系ソフトウェアメーカー」の製品に抵触。
ガサ入れ・逮捕・起訴 とあいなった。

氏名がローカル面で新聞発表されたので、一発で うちの「ボっぱー」(被疑者氏名 自動収集蓄積システム)に引っかかり、警報が鳴った。
(全国紙には載らなかった)

私は送検を待って、両親に接触。
「過去のことは検察には黙っているから いまの生活が どうなったか知りたい」と頼んだ。
少し 趣味の悪い やり方かもしれないが、通常、過去のものであっても コピー販売されてたら、被疑者の逮捕に乗じて損害賠償請求をかけるのが、ソフトメーカーの本来のやり方だ。

だが、私は それを放棄してでも、実際の「姿」を知りたかったのだ。

「山崎さんとこには お世話になっておきながら...もうしわけないです」
お父さんは、泣いていたぞ。
被疑者は 浪人生。(新聞発表では無職)
父親は 中学校の教師。母親は公立病院の看護婦。妹がひとり。祖父母が「離れ」に同居。

初犯であったが、売った本数が大量で 事実上の「店舗」も持っていたぐらいだ。
そのため実刑になる可能性もあり、情状酌量を有利にするため、両親は 私選弁護士の勧めに応じて 曽祖父の代から受け継いだ、屋敷を売却。
また、祖父母も山と畑を売却。老後の資金は、完全に底をついた。

そうして捻出した賠償金を、民事を経ることなく、検察が主張する「販売本数」の「言いなり」で 等分して、ソフトメーカーに配分。
(後に これに異議を申し立て、受け取らなかったソフトハウスがいたことを弁護士から聞いて、ブチ切れた私は そのソフトハウスに乗り込み、事情を説明して 異議を引っ込めてもらった)
(私の声は あきらかに140デシベル を超えていた)

対企業でもないかぎり、民事で損害賠償請求するまでもなく、弁護士の勧め(計算)で損害額の一部がソフトメーカーに納付されることがある。
(厳密には いけないことなんだけどな)
ただ、この場合は 検察の調べた「本数」となり、場合によっては実際よりも多く支払うこともある。
しかし、民事で争って 別件で支払っても、刑事側の量刑に反映されない(酌量されにくい)ため、多少高くても、民事で争わないほうを選択する家族が多いようだ。

公判においては、彼は 起訴事実を全面的に認めた。
その結果 半年足らずで結審することになる。
だが、保釈されても 彼の帰る家は すでに売却されていた。

父親は 中学校を退職。
その退職金の納付を見込んで、農協から融資を受け、保釈金を納付した。
だが保釈金が戻ってきても、そのほとんどが 残りの賠償金に消えてゆく。
両親・祖父母・妹は5人で、公営住宅(3DK)に移り住んでいた。

本人には帰る家が すでになかった。
そして、「保釈」というのは「就職先」が決まっていないと、事実上、認められない。
裁判如何によって どうなるかわからない者を 雇うなんていう企業が いったい どれだけあるだろう。
だが彼は なんとか母親の勤務する病院の 給食センター・所長の厚意により、そこで働くことになった。

給食センターの昼休み(午後2時)に、私は彼に会った。

「山崎さん、本当に厳しいのは、取調べでも裁判でもない。
出てきた後、自分の家族を見ることですよ。
最初の頃 家族と同居するのは 本当につらかった。だけど僕は こう思うんですよ。
社会に対する 償いは裁判所で決められる。
だけど自分の家族に対する償いは、どこで どうすればいいんでしょうね。
僕にはわからない。
いつか わかる日がくるかもしれないけど、でも わかる日は 償うには もう遅いでしょう。
だから、僕は 家族と一緒に すごすことにしました」


偉いのは 大学受験を控えていた妹さんで、それでも国立医大を受験・見事 合格。
学費を新聞奨学生でまかなうことになった。
(新聞奨学生が医大に通えるのか 大いに疑問があったが、いまでも彼女は新聞を配っている。おそらく学部4年を迎えるまで 続けるだろう)

父親は塾の講師のアルバイトをして、現在、細々と生計をたてている。
母親は、同じ病院で いまでも働いている。

忘れんでくれ。親とは そういうもんだ。
たとえ私が被疑者で、誰かを殺害し 損害賠償が足りなかったら...
私の年老いた両親は、私の刑期を1ヶ月でも2ヶ月でも短縮するために、タンスやポットなど 粗末なものまで すべて売り払って、私を助けようとするだろう。
そして その行為を 被害者の家族は、さらに憎むだろう。そのお金は 遺族への賠償としてというより、憎むべき殺人犯の罪を軽くするために、殺人犯の親が 必死で捻出したものだからだ。
だけど、それをやるしかない。やらざるをえない。

彼の場合、帰る家はなかったが、帰る家庭があった。
彼は 幸運だったといえる。

ピーコ犯に思うこと

ぶっちゃけた話、潤沢なソフトメーカーの場合、現在 利益が出ているのなら、いちいち ワレザーに目くじらを立てない。
タレコミがあったり、警察からの問い合わせがあった場合にのみ、
「やれやれ、またかよー」
と、法務担当者がカバンを持って のそのそ動き出す。

社長としても、腹が立つのは「めんどくせーことしてくれたおかげで、うちの誰かが忙しくなる」ということに関してのみだ。
だから、金額に対する 個人的恨みは 被疑者に対して抱かない。

そして、冒頭でも述べたように、「コピー販売を黙認することは・ユーザーの権益を企業みずからが侵害したことになる」という考えのもと、これを無視することはできない。

正直、ほんとうにめんどくさいことになるんだよ、コピー販売されるのは。
企業にとっても、警察にとっても。
だから 多くの場合、本音のところとしては「やっていいから 絶対にバレないでね」と願っているソフトメーカーも多いと思う。
(でも いつか・必ず バレるから、そんなことは しないでね、ってカンジ)


だが一方で、「1万円・2万円」でメシを食べてる中小ソフトメーカーの場合、その営業担当がワレザーを見つけたら、
「おい!うちの法務担当は何をやっている! おれたちに こんだけノルマを課しといて、こういうのは放っておくのか!」
ということになる。
彼らは その1万円・2万円で シノギを削っているからだ。

そんな企業の 追い込みは たいへん厳しいものとなる。


PCソフトウェアの著作権法違反の特殊性は、被疑者(犯人)がこれから戦う相手は、人間ではなく、組織(システム)と対決することが多い点だ。
たとえば、マイクロソフトにはビルゲイツ、DAには山崎はるか がいるが、裁判になっても そういった「個人」と戦うわけではない。
あくまで、それらは責任者であって、企業そのものではない。

すなわち、「ダイアモンドアプリコット」という会社はあっても、ダイアモンドアプリコットという名の「人」はいないのである。
追いかけて、ダイアモンドアプリコット総務部法務課はあっても、肩書きばっかり出てきて、そんな名前の「人」には 最後まで会えない。

公害訴訟に似たところもあって、憎むべき「人」のいない戦いは、精神的疲労のみならず、相手をどんだけ叩いても、それが組織(システム)であるために、少しも痛みを感じない。
痛みを感じる「人」がいない。

これと 同じく、検察庁という組織はあっても、検察庁という「人」はいない。
著作権法という法律(システム)はあっても、著作権法という「人」はいない。

つまり「痛みを感じない相手を敵にまわす行為」。
感情もなく、ただ黙々と機能し続ける相手。
これを敵にしてしまうのである。
これが、ソフトウェアの著作権法違反の怖さである。

それが どれだけ怖いことか、あなたに わかっていただけるであろうか。
これに勝つことは、たいへんに難しいことなのである。

組織は、私みたいに、いちいち「ザ・デイ・アフター」なんか考えたりしない。
私が 「その後」を考えるのは、私が人間であることが大きな理由であり、そして その人間でいるのは 人の「こころ」「気持ち」というのが とても 好きだからだ。

ワレザーの諸君。
あなた方の試みが失敗した場合、誰と戦うことになるのか、知っててやってるか?
相手に「こころ」があるとは限らないのだ。

 2001/01/17 DA電話研究所・山崎はるか
参考資料:UGTOP のコラム


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