服喪の邪魔をするな

ストーカー概論・別編1

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服喪の邪魔をするな

 ここのところ、ストーカー問題について、誤った・あるいは本質的でない「防衛方法」が新聞やテレビで散見される。

 二十年近いストーカー対策活動において、その当初を除き、私はこのボランティア活動の内容・成果について、ほぼ沈黙してきた。
 SNSやtwitterにおいても、ストーカー問題に携わっている事実は述べたとして、ストーカー問題そのものに関する発言は 可能な限り控えてきた。

 なぜなら、
「いま ストーカー問題で困っている 被害者と 加害者にとって、
 これから相談する相手が メディアに露出していることは、
 自分の相談を、誰かに バラしてしまうかもしれない、
 いや名前は伏せたとしても、なにかに利用されるかもしれない、
 という重大な懸念を持ってしまう」
ものであり、それを払しょくするためには、私は無名である必要があったからだ。
 当然ながら、メディアの内部取材は 事実上 シャットアウトするようになった。

 だから、家族ですら、たまの出動時に「あなた まだそんなことやってるの?」と驚かせてしまうこともあった。もちろん妻だけは事実を知っているが、その妻も私のその姿勢を理解してくれて、職務上必要な場合を除き、夫婦の間ですらストーカー問題について話題にのぼることは、まれであった。
 だが、ここまで無名にしても、紹介による相談が現在も連日行われている。いかにストーカー問題が、一般的な社会問題になってしまったかを表している。


 にもかかわらず、今般の報道のあり方に、私は つくづく辟易している。
 ストーカー問題を間近で見たことのない人が、憶測や生兵法で防衛方法を語るのは本当に 危険なことだからである。

 なので、ストーカー問題の本質について ここでひとつだけ 述べておく。
ストーカーの本質はあらゆる切り口があるが、今回は ひとつだけ。


 『恋愛感情』とは、人のこころのなかで 独立して動く勝手な「生命」である。
ある程度、母体と同調はするものの、たいていは意のままにならないし、母体の養分を吸収して勝手に大きくなるし、勝手にちいさくなったり、勝手に消えもする。

 そういった中で、活動中である恋愛感情という「生命」を 一方的に死なせる出来事のひとつが「失恋」である。
 体内に存在する、この独立した生命の死に、母体である肉体も精神もひどくダメージを受ける。

 活動中の恋愛感情の死は、母体にとって肉親の死に等しい。

 なので、たいていの母体は その事実に耐えきれず「服喪」(ふくも)をはじめる。
ある人は泣き、ある人は寝込み、ある人は薬物やアルコールの助けを借りる。
あらゆる手段で、喪に服する(mourning pray)。
そうして 一定期間、あるひとつの生命の死を認める期間を経ることで、その死を感受し、その死の存在を認められるようになって、その死に正面から直面できるようになる。
その生命の在りし日を思い出しても、以前ほどは こころが揺らぐことがなくなる。
そうして、その人は 失恋状態ではなくなってゆくのだ。


 ストーカーとは、あらゆる意味で、この「服喪」に失敗したひとたちである。※恋愛ストーカーの場合

恋愛ストーカー
恋愛対象の喪失をきっかけに、ストーカー行為にいたっている人のこと。
陥りやすい性格的傾向はあるが、あくまで傾向であって条件が整えば、誰でもなる。
 私のような、ストーカー対策活動家(およびボランティアや職員)は、失恋という重大な喪失体験(対象喪失)をした人たちに、喪の服し方をアドバイスし、なおかつ共に喪に服すことで、ストーカーと呼ばれかかっている人(あるいはすでにそう呼ばれている人)を平常な状態に戻すことが、最初にして最大の使命である。

 だから。

「被害者」と呼ばれるひとたちよ。
頼むから、失恋した人の 服喪の邪魔はするな。

 罪悪感や自身の不安から、ふった相手に 再び電話やメールをするな。

受動的防衛
今回は受動的防衛の考え方のひとつを述べている。能動的な防衛、あるいはやむなく積極的な働きかけをするケースについては別の機会に述べる。 いずれも本質はシンプル。
 電話番号もメールアドレスも変えるな。それは あなたの側が「まだ生きている」という重大なシグナルとなる。そのわずかなシグナルがストーカーのこころの中に、むなしい・起きるはずのない希望への暗い灯をともす。
服喪に慣れてない人物に対しては、電話番号やメールアドレスは、すくなくとも1年は放置しろ。あなたの物理的存在を 相手にとって、あるとも・ないともいえない状態、すなわち可能な限り「留保」の状態に置け。

ストーカーとDV
ストーカーとDVは異なる。
DV加害者がストーキングを行うことはたしかにあるが、私が認識する範囲では全体としては少ない。これはDVが距離感の失認が原因で起きることが多く、対象が失われた時点で距離感を回復するためだと推測している。
一方、恋愛ストーカーは対象の喪失によってはじまるため、その本質が大きく異なる。
DVは、関係が破たんする前に開始されていることが多いが、ストーカーによる暴力行為は、関係の破たんの後に起きる。DVの場合は、躊躇なく警察やNPOを通じてシェルターを利用したい。ただし両者が複合しているケースもあり、識別は専門家の意見をよく聞くこと。
 ストーカーが信頼していない人物(特に親兄弟)が、間に立つな。それは最大のタブーである。その行為は電話やアドレスの変更以上に、あなたにアクションがあったことを明確にし、ストーカーの服喪を完全に中断させる。
間に立つべきは、ストーカーが信頼を置いている人か、それがいなければ 私たちのような対応経験を持つ職員やボランティア/NPOでなければならない。
(その点で、「未熟な」警察官の介入があることに、私たちは しばしば迷惑している。もちろん有能な警察官もいるが、そういう人ほど現場から離れてしまうことが少なくない)


 そもそも、人は どのような失恋であろうとも適切な距離があれば、自然に服喪してしまうものなのである。
 それがなんらかの理由で阻害されているのがストーカーであり、多くの場合、その阻害の原因は、まだ二人の関係ができあがる前のエピソードと・失恋した後の被害者の行動にある。


だから「被害者」と呼ばれたひとたちよ。
そして「被害者」を支援するひとたちよ。
失恋した人の 服喪の邪魔はするな。
邪魔しないでさえくれれば、たいていは なんとかなる。

もちろん私は、被害者であるあなたの生活も平常に戻すことが使命であるが、それはストーカーの行為を「いまだけ」制限することではない。まして力づくや公権力を背景とした恫喝によってでもない。
ストーカーの意識から、あなたに関する感情が消し去られることによってそれは成されるべきであると考えている。
  そういった本質的な解決がなされない限り、何年・何十年とストーカーの執念をくすぶらせかねない。ストーカーの脅威は、あなたが一方的に安心したところで消え去るわけではなく、放置すればきわめて長期にわたり存在し続けるのだ。

 あなたの行為と 誤った理解が、相手をストーカーに変えてしまうことがないように、ストーカー問題に対応する者のひとりとして、切に願っている。
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2013/10/13・山崎はるか


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