ストーカーは懲らしめるべきか?
ストーカー概論・別編2
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ストーカーは異常者か?
ストーカーのことを「異常者」と呼ぶ人がいる。
なにをもって異常者とするかは難しいが、もし「異常な行為が治らない人」という意味だったら、少なくとも恋愛ストーカーについては、それはあてはまらない。
まず「ストーカー」は疾患名ではない、現象名である。(病気ですらない)
そして、わりとカンタンに治る。治りにくいケースもあるが、レアケース。
恋愛ストーカーなら、短ければ1回の面接で変化が起きる。通常は3回、長いほうで5回の面接で、全体の9割近くが終了となる。もはやセラピーですらない。
そんなので治る人を 異常者って言っていいのかな?
ストーカーのことを「壊れてる」という人もいるが、本当に壊れてるのかな。
ほかにも、「被害者は女性」というイメージが一般にはある。
しかし、すくなくとも私たちが開設している「ストーカー問題相談室」では男性の被害相談が多いのだ。女性が被害者というイメージは、各都道府県警の認知件数の統計(被害者男女比・男性1:女性9)などが影響していると考えられるが、警察に認知されていないストーカー被害は、むしろ男性のほうが多い。
こういった世間のイメージと現実のかい離は、ストーカー問題が身近に起きたときの、初期対応の誤りに直結している。特に周囲の支援者が誤った行動をとりやすい。
今回は、そうなってしまう理由を 被害者側の「数値」からお見せしたい。
統計(エビデンス)に基づかないストーカー対策論は、(すべてとは言わないが)参考意見程度か、あるいは個人の推測にすぎないと私は考えている。
被害者は女性が多いのか?
東京都中央区にある、「ストーカー問題相談室」における2012年度「被害者相談」受任総数は216件(人)。
うち、相談の統計使用・同意者209人、留保6人、不同意1人。
今回は、この同意者209人(n=209)を用いて男女比率をとった。
被害者男女比
男性 126人(60.3%)
女性 83人(39.7%)
被害者は男性のほうが多いのである。
この男性優位の傾向は1995年の相談室開設以来、一度も逆転したことがない。
一方、各都道府県警が発表しているストーカー被害の認知件数における男女比は、男性1:女性9の比率で一定している。しかも全国的なレベルで。
なぜこのような開きが生じるかは長いあいだ謎で、「どのようなバイアスがかかってんの?」「警察にバイアスがかかってんの?
それともうちにかかってんの?」と、かなり悩んだ。
そこで、2009年ごろから「警察ではなく当相談室を選んだ理由」の項目をカルテに加えた。
2012年の統計使用同意者209人のうち、企業・団体経由の相談者を除いた「男性被害者」の79人、「女性被害者」の60人のそれぞれの回答は次の通り。
(複数回答の場合は第一順位)
警察に相談しなかった理由(男性)
29.1%(23人) 「はずかしい」(プライドが傷つく・警察には人が大勢いていやだなど)
20.3%(16人)「警察に言えない」(自分に犯罪・軽犯罪・性癖等があって相談できないなど)
12.7%(10人)「警察には対応できないと思った」(ストーカーにではなく自分に支援がほしい、相手を気遣ってくれる保証がない等)
(n=79)
「男性被害者は
めったなことで警察に行かない。警察に相談できない理由や事情が多くて、どの深刻度の人も、警察に行きたがらない」
男性被害者がNPOに相談する際の深刻度が 手におえないほど高いケースがあるのも、そのためであると推測される。
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警察安全相談
あまり知られていないのかもしれないが、警察署には「安全相談」の係がある。警察本部を通じてシェルターやNPOの紹介をしてくれることもあるので、緊急性や危険性がわからないときは、安全相談に話を聞いてみるのもよいかもしれない。
警察に相談しなかった理由(女性)
33.3%(20人)「警察への相談はゆきすぎ」(守ってほしいのであって相手をどうこうしてほしいわけじゃないなど)
28.3%(17人) 「はずかしい」(プライベートすぎる・女性相談員が不在と言われたなど)
15%(9人)「望んでいる事柄が警察の仕事ではないと思った」(わかってくれそうにない、引っ越し等の具体的なサポートがほしい等)
(n=60)
「女性は 恐怖心を持ったら、警察に向かう」
女性被害者は 自身の恐怖感という「主観」を基準にしており、深刻度とは あまり関係なく、警察に向かう判断をしていると推測される。これは先の統計に合わせて、各々に事情を聴いて判明した。
この「主観」というのが
くせもので、事態が深刻化しているのに当事者の切迫感がまるでない、というようなことがある一方、当事者だけは切迫しているが 実態は軽い(ただし行動は極端で攻撃的)というのが織り交ぜられた層が警察に
まとめて向かうことになる。
警察にとって識別はたいへんだろうし、深刻な層のとりこぼしも多々あろう。
たいへんだと思うが、相談に来るのは「女性ばかりに見えてしまう」という理由のひとつはそういうことだ。
全体は男女ほぼ同数か?
ストーカー問題相談室の受任件数と、地方の県警を足してみると、係数にもよるが、おおむね男女同数に近い値になる。
-
警察に到達する被害相談者は 男性1:女性9で 圧倒的女性多数かもしれないが、警察に到達していない被害相談者は むしろ男性のほうが多い。
つまり、警察やNPOにバイアスがかかっているのではない。
男性は警察に行きたがらず、一定の女性が警察に行っている、ということである。
いずれにせよ、
もし「ストーカーは男性であり、女性ばかりがその被害に遭ってる」という思い込みがあるのなら、それは誤りである。
ストーカーは懲らしめるべきか?
現在の社会風潮は、ストーカーは異常者で、断じて懲らしめ、社会から排除すべきであるという考えのように見える。
だが、本当にそうしていいのだろうか。それは果たして正しいことなのだろうか。
恋愛ストーカー被害に遭った男性126人に聞いた。
別れた後 その相手と、なんらかの性交渉をもちましたか?
恋愛ストーカー
被害者男性の
43.7%(55人)が「はい」と答え、
11.1%(14人)が「あったかもしれない」と回答している。
すなわち、自分で別れておいて、その後も連絡をとって性交渉をもった人は、過半数である、ということである。
理由は、なんだろう。
「あってあげたらよろこぶと思ったから」(20代)、「嫌いで別れたわけじゃなかったから」(30代)
別れを切り出した側から、そういった言い分が並ぶ。
交際中 10万円以上の金品の授受があり現在も未精算のものがありますか?
ホストクラブの男性ホストの話ではない。
一般の社会人や学生である。
54%(68人)が「はい」と答えている。
この統計での平均交際期間は3年2か月弱だが、人それぞれといえども「形のあるもの」で10万円以上授受がそれだけの期間で行われ、それを返却しない。
「もらったものは自分のものだから」(30代)「いくら借りたかわからない」(20代)
ある種の開き直りであって、誠意のある「ごめんなさい」が、別れ際の彼らのくちからでることはめったにない。
加害者と被害者。
あなたは、どちらにアドバイスが必要と思うか
聡明な人なら「どちらにも必要」と考えるだろう。
ここで原点を振り返ってみよう。
「ストーカーは懲らしめるべきか?」
私は、少なくとも 話は聞くべきだと思っている。被害者が同じ不幸を繰り返さないように。
それに、そもそも、「もう被害に遭ってる」ストーカーを、さらに懲らしめるという考え方を私は持てない。
統計グラフがもたらす問題点
こういう統計値を出す問題点は、
「多数」を「全体」として受け止められがちなことである。
左記の例では、
「被害者には過失がある」
さらには
「ストーカーに襲われるのは、別れた後に相手とやっちゃったからでしょ?」
といった受け止め方や 思い込みが起きやすい。
だがそれは明らかに誤りで、
「いいえ」
の存在をまったく無視している。
ややもするとセカンドレイプ的な問題になるので、今回は「女性側」の統計は提示を見送った。
また、たとえ被害者に重い過失があったとしても救済を求めていることに変わりはなく、やり直す機会を奪ってはならない。
あくまでここで述べているのは、
「ストーカー問題は 善悪や正邪・正誤の考え方では解決できない」
という事実である。
親族・友人が事態を致命的にすることがある
あなたは、家族や友人からストーカー被害の相談を受けたことがあるだろうか。
被害を誰かに相談しましたか?
はい 189人(90.4%)
いいえ 20人(9.6%)
(n=209)
「ストーカー問題相談室」は多くが、他の団体・個人からの紹介で受任している。
一方で、この中の「いいえ」には、ストーカーからの相談を受けて、当相談室から直接・被害者に働きかけたケースや、自治体からの支援要請により受任したケースも含んでいる。したがって、この調査結果については、多少のバイアスがあると思う。
ただ基本的には、一定以上深刻化したストーカー被害者は、なんらかのかたちで周囲に相談することが多いと考えられる。
↓
上の質問で「誰かに相談した方(189人)」にうかがいます。
被害を誰に相談しましたか?
(複数回答)
上司・先輩 25%
友人 22%
親族 15%
同僚 13%
カウンセラー 6%
弁護士等司法関係者6%
恋人・配偶者 5%
その他 8%
↓
同じく「誰かに相談した方(189人)」にうかがいます。
あなたにとって、公になれば都合が悪い(または社会的立場が不利になる)ことがあり、それをストーカーは知っていますか?
はい 90.5%
いいえ 9.5%
(n=189)
つまり、9割がなんらかの弱みを握られているということになる。
↓
上の質問で「はい」と答えた方(171人)にうかがいます。
「自分に都合が悪い・不利になる事実」をストーカーが知っているとおっしゃいました。そのことを、相談した人に言いましたか?
はい 18.1%
いいえ 81.9%
(n=171)
相談はしているが、重大なことについては8割の被害者がしゃべっていない。
なにげないことだが、これが どういうことになるのかというとね。
「仲裁を引き受けた人(の8割)が、現場で パニックを起こす」
ことになるのである。
あたりまえだ。重大な事実を聞かされてないんだから。
実際、多くが起こしてる。
ストーカーにとっても、
「なにも知らないヤツが、横からでてきやがって! だったら教えてやるよ、こいつの正体を!」
ってことになる。
一例として、わいせつ画像の第三者頒布(バラまき事案)は、約90%以上が
「他者の介入」
以後にはじまっている。
逆に言うと、バラまきがあった時点で、
「第三者の介入があり、それに失敗した」
と強く考慮しておくのが、私たちストーカー対策活動家の常識だ。それぐらいの相関がある。
仲裁を引き受けた人は、おそろしくなって「これは警察に言ったほうがいいよ」などと、逃げ出す。確かに、他になにが出てくるかわからないんだから、逃げたほうがいいのはそりゃそうだが、事態を極度に悪化させた責任をどう取るのかは、たいてい不明瞭である。
一方、相談した被害者は孤立を深め、ストーカーのほうは勢いを増し、双方出口のない混迷さをより深めてゆく。
私たちストーカー対策活動家に相談がなされる中で、やっかいなのが だいたいこのあたりのステージだ。この状態から加害者と面接できるまでに持ち込むのは、ほんとに大変で長いロードマップを要するのである。
2013/10/16・山崎はるか
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