前回、植物性乳酸菌ラブレの密造に成功してから2年後の、2009年12月。
明治乳業(当時)から「明治ヨーグルトR-1」ドリンク・ソフトタイプの各ヨーグルト製品が発売されたことを知った。
というか、モニターに当たったので試食する機会に恵まれたってことなんだけどね。
食べたカンジは、
「んー・・・LG21に近い味だし、んまいじゃん、これ」
というのが第一印象。
製造記号は明治乳業・東北工場を示す「KT」だったように思う。
私はこのヨーグルトを密造しようとは思わなかった。
この「R-1」が「何の効果があるのか」よくわからなかったからだ。
パンフレットによると、EPS(Exopolysaccharide)という謎の物質(多糖体)により、「活力」になるのだとか、なんとか。
活力?
薬事法があるにしても、かなり遠い表現。
そこで論文や特許を調べてみると、どうやら「慢性関節リウマチ」などの「自己免疫疾患の予防」に効果があるらしかった。
ふーんとは思ったけど、私はリウマチではないし、なんだかマニアックな市場を狙ったもんだ、そんなにリウマチの人がいるのか、病院食なのか?という印象だった。
ところが、明治ヨーグルトR-1が「インフルエンザ予防に効果的」との情報が報道でひろまった。
えええ?そうだったの?と驚いているうちに、みるみる品薄になり、続いて入ってきたニュースにもっと驚いた。
明治ヨーグルトR-1は2012年初頭に圧倒的な人気(5倍の売れ行き)で供給不足に陥り、R-1増産のために、LG21のドリンク、ヨーグルトの両ラインの一部を休止するらしい、という報道である。
これには驚愕した。
R-1の人気にではない。
LG21の製造ラインで、R-1を作るらしい、ということにびっくりなのである。
LG21で使われる乳酸菌は酸素を嫌う(偏性嫌気性のラクトバチルス・ガッセリ
OLL2716)※右コラム。
そのため製造工場では専用設計の培養槽を数段階用いるという話も漏れ聞く。
そんなシビアな専用製造ラインに、R-1乳酸菌(ラクトバチルス・ブルガリクス OLL 1073 R-1)
を横から持ってきて設備を転用できるということは、
- R-1は、けっこう容易に培養できる?
- 培養槽は単段で足り、LG21のような複雑な工程を要しない?
- 有効成分の多糖体は分離・再混合ではなく、ヨーグルトとして作ってる?
ということを、示唆していた。
(事実、R-1にはLG21の製造で有名な関西工場の記号が付されていた。)
つまり、R-1(および有効成分)は家庭でも培養できる可能性がある、ということだ。
首都圏で販売されている 明治ヨーグルトR-1と LG21
いずれも首都圏のコンビニだが、
R-1(左)に、関西工場(大阪府貝塚市)の KN のマークがある。
LG21(右)には、神奈川工場(神奈川県茅ケ崎市)の Kナ のマーク
首都圏のR-1は、本来 KZ (埼玉県・戸田工場)が表記されることが多い。だが足りずに関西工場 KN の応援を得ているようだ
R-1の本名は、Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus OLL 1073 R-1 というブルガリア乳酸菌。
・・・ブルガリア菌なら、牛乳に入れて40℃ぐらいにすりゃ、増殖できると思うが、もう一度 資料を見直すことにした。
明治株式会社のR-1に関する資料の中に興味深い記述があった。
多糖産生乳酸菌を利用した発酵乳の作製
NK活性上昇作用を有する酸性多糖体を産生するL. bulgaricus
OLL1073R-1を用いて発酵乳を作製した。生乳、脱脂粉乳、砂糖を使用し、SNF9.7%、FAT3.05%、砂糖3.0%に調製した溶液(以下発酵乳Mix)にL.
bulgaricus OLL1073R-1、S. thermophilus OLS3059(FERM
P-15487)をスターター菌として加え、43℃で発酵を行った。酸度0.7で発酵を終了し、4℃で1日保存することで最終酸度0.78となった。また、対照発酵乳としてL.
bulgaricus OLL1256及びS. thermophilus OLS3295をスターター菌として用いた発酵乳についても作製した。
(特許出願2004-203601・出願人明治乳業株式会社・出願日2004.7.9)
SNF9.7%とは、無脂乳固形分9.7%のこと。
FAT3.05%とは、乳脂肪分3.05%のこと。
つまり生乳に脱脂粉乳を混ぜ、そこに砂糖を加えて発酵する。
・・・んん? どっかで見たことあるぞ?
R-1の品質表示
おなじ じゃないか!
商品の製法を、特許出願の実施例に書いたのか! いいのか?
まあ、ベストの生産条件を書いとかないと、実用新案とられちゃう可能性もあるけどさ。
なんにせよ、R-1の公式製造ガイド(製造方法)が、明治から発表されちゃってることには ちがいないわけだ。
注意 この記事は、市販のヨーグルトを種菌に用いて家庭でヨーグルト製造を行う方法を説明しています。製造食器の消毒・ケガをした指で製造をしないなど、食品加工における基本的な注意点は多岐にわたりますが、本記事ですべてを解説することはできません。また発酵食品の多くは複数の菌種と環境バランスが作用するため、種となったメーカーの製品とは異なる発酵物(環境によっては腐敗物)ができあがるおそれがあります。実施においては、食品衛生上のリスクが伴うことをご承知願います。筆者はこの記事に起因するいかなる責任も負いません。実施はすべて自己責任でおこなってください。
R-1からのヨーグルトの密造で、入手が難しい材料はない。
無調整牛乳・砂糖は たいてい手に入る。しいて言えば 種菌の
「明治ヨーグルトR-1」
が、2012年2月時点では品薄という程度か。
それよりも目下の課題は、R-1の発酵温度が 43℃ で、ちょい高めという点である。
電気毛布では足りず、こたつや、湯せんでは温度が安定しない。また普通の「ヨーグルトメーカー」は、だいたい36~41℃。しかも室温によって変動しやすい不安定な機種が多い。
ヨーグルト製造の熟練者ほど、温度管理がいかに重要か知っている。
安価なヨーグルトは製造しやすいから安いのだ。他方、効能をうたった高いプロバイオテクス系ヨーグルトは、使われている乳酸菌の温度特性がシビアで、厳密に発酵温度を管理しないとすぐに失敗する。(あるいは見た目が同じで中身が別のヨーグルトができあがる)
43℃というちょい高めな温度を、安定して出せるヨーグルトメーカー。
この難題を解決するには、もう、あのお方にご登場していただくしかないだろう。
R-1をベースにヨーグルトを作るなら、もはやこれしかない。
大学の研究室でも使われるほどの信頼性。各種ヨーグルトはもちろん、甘酒・納豆までかもす汎用性の高さ。そのおかげで植物性乳酸菌ラブレの密造のときも大活躍だったが、特に今回のR-1については、他の選択肢は考えられない。※
※
家庭用としては。
そろえるもの
自家製R-1ヨーグルト・1kg(1000ml)分の材料/器具
材料
- 牛乳 : 成分無調整乳 1リットル (「明治・おいしい牛乳」をつかうのが、礼儀である)
- ヨーグルト種:明治ヨーグルトR-1(ハードタイプ) 半量
- 砂糖: 30g (おおさじ3杯ちょっと)
器具
発酵温度
- 43℃
- 12時間 (加糖しない場合は8~10時間)
(2012/2/4・山崎はるか)
デザイン修正:2017/02/17
※「明治ヨーグルトR-1」は株式会社明治の商品です。